news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

今なお残るアスベスト問題

すでにご存じとは思いますが、アスベストは、天然鉱物線維の1つであり、青石綿(クロシドライト)、茶石綿(アモサイト)、白石綿(クリソタイル)などの一群の鉱物の総称です。日本では、主に青石綿、茶石綿、白石綿が工業的に使用されてきました。

アスベストは、耐熱性、機械的強度、耐久性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れており、かつては「奇跡の鉱物」と呼ばれました。そのため、防音材、断熱材、耐火材、屋根材、床材などの建材が主な用途で、その他では車のブレーキパッドや配管シール材など幅広く使用されてきました。

しかしながら、アスベストはヒトに対する発がん性物質であり、肺がんや悪性中皮腫を引き起こすことがわかっています。その強さは、クロシドライトとアモサイトが強く、日本ではこの2つのアスベスト使用は1995年に禁止されています。クリソタイルは、その後も使用が続けられてきましたが、2006年にはごく一部の用途を除いて全面的に禁止されました。

アスベスト関連疾患の中でも、悪性中皮腫は、いまだに治療法が確立されておらず、発見が遅れるため、悪性中皮腫の発症後1年から2年でほとんど亡くなってしまいます。特に、アスベストに曝露してから発症するまでの潜伏期間が30年から40年と長期にわたるため、過去にアスベストに曝露した経験があり、現在ではアスベストに曝露していなくても、その後悪性中皮腫を発症することがあります。そのため、「静かなる時限爆弾」と呼ばれています。

また、アスベストへの曝露は、アスベストを取り扱う事業場での曝露(職業性曝露)だけでなく、その事業場の近隣曝露、アスベスト作業従事者が持ち帰った衣類等に付着したアスベストへの曝露(家庭内曝露)、一般環境中の曝露(道路沿道)など、幅広い曝露形態があります。

アスベストは、先進国ではほぼ使用禁止となっていますが、中国やインド等の途上国では、近年でもアスベストの消費量が増大しており、世界保健機関(WHO)は、使用禁止に向けた勧告等を行っています。

また、先進国では、すでにアスベストは使用されていませんが、1960年代から1980年代にかけて曝露した人たちが、長い潜伏期間を経て悪性中皮腫を発症しており、日本でも、未だに悪性中皮腫の患者は増大しており、そのピークは2020年から2030年頃になると推定されています。

アスベストでもう1つ問題なのは、過去にアスベストが使用されていた建築物の解体です。これから解体がピークをむかえていきます。アスベストが使用された建築物の解体において、解体作業従事者の保護や、周辺住民への曝露を防ぐための方策は進められています。

ただ、アスベストが使用されていると図面等で明記されていなくても、解体、改装、改築等を行ってみると、青石綿や茶石綿が使用された吹きつけアスベスト(最も飛散しやすい使用方法)が発見される事例も報告されています。

その際、施工業者がアスベストに関する知識や経験(アスベストを見たことがない等)に乏しいことがある場合も見受けられ、吹き付けアスベストがむき出しになっていても、それがアスベストであると気づかずに、何ら防護措置をせずに作業を行う事例も報告されています。そのことによって、作業者がアスベストに高濃度曝露したり、周辺にアスベストが飛散する事例が報告されています。

WHOは、アスベストについて、住宅と健康における重要な問題の1つに位置づけています。アスベストの気中濃度のガイドラインは日本にはありませんが、WHOは、悪性中皮腫の空気質ガイドラインとして、10万分の1の発がんリスクに換算すると、1リットルあたりで0.05本から0.5本としており、極めて少ない濃度です。

建物の解体時や改築時に、吹き付けのような箇所が見つかった場合には、それがアスベストである可能性もあるので、専門の業者にアスベストかどうか検査していただくなど、注意が必要です。少し古いですが、国土交通省が発行しているアスベスト建材の資料がありますので、建築物での使用事例について参考になるかと思います。

目で見るアスベスト建材(第2版) – 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/01/010425_3/01.pdf

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