霜月 2018

かつてよく通ったことのある坂道の途中に、誰の目にも印象に残るであろう鬼子母神真成寺(きしぼじんしんじょうじ)と深く刻まれた石柱がドンと立っている。
こんどはお寺を訪ねてみようと足腰を労りながら坂道を登ると、石柱と並んで赤く染まった柘榴が旬をむかえていた。
山門を跨ぎ、「どうぞご自由にお入りください」という貼紙を見て本堂の戸を開けると願かけ千羽鶴が沢山、目に仕舞い。住職のお出ましを願う。
五百人とも千人とも云われている子供を持ちながら、他人(ひと)の子供を食べるという仏伝に極めつきの鬼母が、ある日お釈迦さまに大切な子供の一人を隠される。鬼母は気も狂わんばかりの悲嘆に暮れ、お釈迦様におすがりする。「子供を失った母親の気持ちはいかばかりか」と悟され慈悲心に目覚める。それからは子安形の鬼子母神として左手に赤ん坊、右手に子宝を象徴する吉祥果柘榴を携えて人々を救済する姿になられた。
鬼子母神真成寺の須弥壇の中央に安置された座像には、子授けや安産が適った母親たちから百徳の着物として奉納されるようになり、「ここには百徳を積んだ着物が300着余り保存されていますよ」とお聞きして活けた柘榴です。

花材:柘榴、小菊、石蕗(ツワブキ)、野菊、ツルウメモドキ
器:江崎 満 焼〆

柘榴、小菊、石蕗(ツワブキ)、野菊、ツルウメモドキ

柘榴、小菊、石蕗(ツワブキ)、野菊、ツルウメモドキ