江分利満家の方かい 山口正介

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新築当初の変奇館にはクーラーというか冷房設備がなかった。
まだ地球温暖化、などといわれていないころだったからだろうか。暑ければ、窓を開ければいいじゃないかとでも考えていたのだろうか。

 冬の暖房は大型の石油ヒーターがあり、真冬でもTシャツ一枚ですごせるほどだった。変奇館は何度も書くように発泡コンクリートの壁と大きなガラス窓から出来ている。発泡コンクリートはそれなりに温度差を軽減できる機能をもっていたようだ。
 しかし、問題はガラスである。当時は今とちがってペアガラスなどは、まだ一般的ではなかった。また紫外線を吸収するようなガラスも商品化されていなかったのではないか。したがって、金魚鉢のような変奇館は温室であるといってもよかった。冬は日差しが奥まで入り、温かかった。
 しかし、夏の暑さには参ってしまった。とはいうものの、近年まで半地下には冷房がいらなかったのだから、半地下はそれなりに涼しくなっていたのだろう。
 新築された変奇館の中二階が瞳の書斎となった。南側はもちろん全面、ガラス窓というか引き戸で、ちょっとしたパティオ風のベランダに出られた。
 真夏の猛暑は瞳の執筆活動の邪魔をするほどになった。そこで、はじめてクーラーを購入することとなる。

 - 私は初めて冷房装置なるものを設けた。私が買ったのではなく、女房が近くの電気商を呼んで取りつけたのである。-(『男性自身/第407話』)
 仕事の効率をあげるために導入したというのに、機械ものに弱い瞳はクーラーになじめず、うっかり三時間も昼寝をしてしまい、重篤な冷房病になってしまう。起きたときに首筋から手足まで、凍えるような寒さだったと書いている。