庭と瞳と植木屋さん

この庭はやりようがないねえ」と後に懇意となる地元の植木屋さんが言ったと、瞳が書いているは「男性自身」シリーズの「変奇館日常」だ。以下、引用はすべて「変奇館日常」の第三話から。

 前にも書いたが変奇館の庭は四間四方ほどのほぼ正方形で、真ん中辺りにセントラルヒーティング用の石油タンクが置かれている。 このタンクは鋼鉄製の櫓の上に設置されており、政令などで決められているのか、銀色のペンキで塗られていた。
 また、下部にはもしものときに漏れた石油を溜めるためのコンクリート製の浅い池のようなものが設えられている。ここに僕が水を張って金魚を飼っていたら、定期点検に現れた消防署職員にこっぴどく叱られた。
 水が入っていたら、もしものときに用をなさないというのだ。これはもっともな話で、さっそく金魚は本来の池に移された。

 というような庭であったので、植木屋が嘆くのも無理はなかった。
 「この庭は平らじゃないよ」と植木屋が言った。瞳が疑問に思うと、「ほんとうに平らだったら、真ん中が凹んでみえるもんですよ」と言う。
 ― 植木屋は、石油タンクを薪みたいなもので囲って水車小屋に見立て、鯉のいる水槽に向かう地面を斜面にしてツツジを植え込むというプランを変更しようとしない ―、ということとなる。

 瞳と植木屋さんの話し合いは平行線のままつづいた。
 ― 私は、ソロ、ナラ、ブナをさらに強調して、雑木林ふうにしたいと思った。 ―
 ついに、植木屋さんが、― 「賛成だね。(中略)だけど、田舎の家にソロやナラを持っていくと、薪を持ってきたと言って、ぶん殴られるよ」 ―
 という事態になるが、瞳はようやく植木屋さんの思想改革に成功したと喜ぶのだった。瞳は植木屋さんをはじめとする職人の経験から生まれた、たくまざる知恵を好んだ。