江分利満家の方かい 山口正介

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近所でガソリンスタンドができるのではないかと噂された前衛建築の鉄筋コンクリートの家はできた。その家のことを詳述する前に、まずは外堀を埋める、ではないが、少し庭のことを書いてみよう。

 この庭も父、山口瞳がこよなく愛したものだったことは、みなさんご存じだと思う。
 完成した新居の庭は五間に四間ほどの四角い更地であった。その中央には、前衛芸術のオブジェを模したのか、容量350リッター、銀色に塗られた石油タンクが鎮座していた。
 これは、室内の床下に埋め込まれたアメリカ製の石油ストーブに給油するためのものだった。最初に寒いと感じた日に着火すると、そのまま暖かくなる春先まで、一日中、つけっぱなしだ。だから冬でもシャツ一枚ですごせた。
 今現在はこの容量のタンクを一般家庭に設置することはできないと聞いている。この石油ストーブに関しては、またあらためて書きたいと思います。
 この実に殺風景な庭を、瞳は雑木林にすることにした。なにしろ超モダンな彫刻のごとき巨大なタンクが中央にあるのだから、枯山水や心の字池に灯籠と松、などという庭は、似合うはずもなかった。
 だから、自棄っぱちになり、なかば苦肉の策として雑木林にすることにした。瞳自身は、数寄屋造りに似合いそうな日本庭園も苦手だったので、理想的には、一面の芝生にススキを一株、というシンプルな庭にしたかったようだ。

 友人の知り合いのつてを頼って、家からも余り遠くない奥多摩の造り酒屋まで出かけ、その裏山に入らせてもらって、実生の小さな苗木を軽トラック一杯もらってきた。
 これをアトランダムに庭に植えたのだった。木の名前も分からず、育つとどんなことになるかわからないので、無計画にバラバラに植えた。
 後に詳しい方にきいたら、ミズキやらソロやらケヤキであった。
 そこに大國魂神社の境内の植木市で購入したヤマコブシと木蓮を植えた。これが我が家の庭の最初の形だった。