• 「凧名人の春」<br />大野研介

    凧名人は、多忙である。
    年に何回か、全国規模の大会がある。今年も、金沢内灘海岸の「世界凧の祭典」など、そのいくつかに出場した。大会へ行くとシゲキを受けて、彼はまた、凧づくりに励む。平均すれば、1日1個。気に入った凧は、部屋のあちこちに、キチンと並べられる。
    材料は、竹ヒゴ、紙(とくに和紙)、ビニール、セロテープ。興がのると、夜中の2時、3時まで、つくる。太巻きのセロテープが、あっという間になくなる。骨をつけること、糸目をつくることが、好きだ。しっぽは、バランスがわるいからつけるのであって、凧がしっかりしていれば、必要ないと考える。つくりながら、タテヨコナナメ、ためつすがめつ。そして、ここに、骨が1本ほしいな、などと手直しをする。セオリー通りにつくっていては、面白いものは、出てこない。
    大会では、凧名人の凧は目立つ。他の凧名人の凧が、キチンとシンメトリーなできであるのに対し、彼のは少し違っている。しかし、よく揚がるのだ。「よく揚がるねえ」「なんで、これで、揚がるんだ ?」そんな、凧仲間たちの質問に答え、盛り上がる。
    凧名人は、人気者である。