一年間にわたって、筆者の周りの森林で繰り広げられる出来事やエピソードを感じたままにコラムに書いてきました。タイトルの「続・森林を守る」という題目には及ばない部分や未消化な部分があったことはお許しください。しかしながら経済中心の日本社会が、国土の基盤である森林と、それを守る山村地域のコミュニティーを崩壊させ、森林という地域財産を十分に活用できないでいる地域の一端と、その中でも森の現状をなんとかしようと活動しはじめた人達に触れるうちに、やっぱり森林は地域の財産であり、森林を守り続けることは人類に課された命題であることを、改めて思う次第です。このコラムの最後に「森林化社会」のことについて少し書いて筆を納めたいと思います。
「森林化社会」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。『現代用語の基礎知識』(1990年版)によれば、「西欧型都市文明、合理効率主義に対抗する価値観として汗を流す喜び、生活者としての感覚と心の豊かさを取り戻す山村地域社会型価値観」と定義されています。「森林化社会」という言葉は「脱都市化社会」を読み替えたものでもあります。都市部を中心とした生活スタイルに対して、森林を起点とする山村地域に生活の基盤を求める人達が、森林を中心とする自然空間の中でライフスタイルを見直そうとする動きとしてとらえることができます。
――美しい景観を持ち、そこではフレンドリーなコミュニケーションが得られ、生い繁った樹木に囲まれた家々には平和な生活がある。住民たちの人気(じんき)が実にいいところだ。そのような文化と風土に根差した社会――いわば<森林系に組み込まれた人類社会の極相(climax)の姿>がめざす森林化社会である。その所在は大都会ではなく、地方(region)である。そこに芽生えるこじんまりしたまち(small town)――が森林化社会である。(『森林理想郷を求めて――美しく小さなまちへ』平野 秀樹著 中央公論社1996年 より) ――と表現されています。
この森林化社会を実現するには、森林を持続可能な状況で維持管理していくことが求められます。しかしながら、所有境界の分からない管理放棄された森林は増加しつづけ、皆伐施業後の再造林放棄地も増加しています。これは、戦後に日本の林業が目指した労働集約型の皆伐再造林による林業経営の破綻を意味しています。これからの林業は、皆伐再造林方式の林業から非皆伐方式の林業へ転換していくことが必要になると思います。VOL.6、VOL.7で紹介した岐阜県美濃市片知地区のモデル事業も、皆伐再造林を前提とした分収造林契約地の契約を解除し、長期的な視野で林業活動をしながら水源林の森づくりをしていこうとする取り組みです。林業という産業は、人間の生命よりも長いサイクルで資源を循環利用してく必要があるがゆえに、森林資源をどのように活かしてくかという長期的な国策が大きな影響を及ぼす産業です。
東日本大震災による福島原発事故を契機に、日本のエネルギー政策の見直しがはかられようとしています。日本人が生活者としての感覚と心の豊かさを取り戻すことを見直し、山村地域社会型価値観に基づく森林化社会の構築を目指すことを選択するためには、政権に左右されることのない森づくりの哲学を国民が共有する必要があります。そうなれば本当の意味で森林を守り、森林化社会の実現が出来ると思うのですが・・・。(了)