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冷え込む日が増えてきて一気に冬の様相。暖かい部屋が恋しい季節です。暖かい部屋といってステレオタイプに思い浮かぶのはレンガで組まれた暖炉で薪がパチパチと燃える様。シチューの宣伝のようですが、ボクが新築やリフォームの相談を受けるとき、必ずと言ってほどでてくるのは暖炉の話。多くの方にとって暖炉は憧れのようです。

 

しかし、これは見果てぬ夢に終わることがほとんど。都会ではいろいろと制約も多く、実現は難しい。なにより問題は、燃料となる薪の安定供給。よほど恵まれた方でないかぎり、乾燥した天然木の枝や丸太がいつも手に入ることはないでしょう。建築材料の端材や解体された家からでる材木では有害な煙や臭いの問題が発生するだけでなく、煙突も傷めてしまいます。かといって薪として販売されているクヌギやナラを買っていたのでは、とてつもないランニングコストになってしまいます。暖炉を1日中燃やし続けると驚くほどの材木を消費するものなのです。森の中に暮らしているのでもなければ、置き場の問題も含めてかなり大変なこと。

 

1軒ごとにまとめられた煙突、各戸に6ヶ所ぐらい暖炉があると思われる。
1軒ごとにまとめられた煙突、
各戸に6ヶ所ぐらい暖炉があると思われる。

海外でも同様のようで、ほとんど家が電気で炎のように見えるダミーの薪を置いています。ロンドンの住宅地に並ぶテラスハウスのほとんどは19世紀から20世紀初期までに建てられたもの。屋上には無数のチムニーポット(煙突)が並び、中に入ると各部屋の大きさに合わせた暖炉が設置されています。当時のロンドンはもう大都会、これだけの暖炉で燃やす薪を供給するような樹木はありません。実際には石炭やコークス燃やしていた暖炉も多かったのです。

 

そもそも、暖炉というものは暖房器具としてはかなり効率が悪い。暖かいのは炎の真ん前、それも面している側だけで、背面はスースーして、部屋の空気はなかなか暖まりません。解放されているから威勢良く炎を上げて燃えてはくれますので、薪はどんどん灰になっていきますが、暖まって軽くなった空気は、煙とともに煙突から外へと排出されてしまいます。それを補う為に新鮮な空気が部屋のアチコチから吸い込まれてきます。すきま風が吹き込むのではなく、吸い込んでいる状態なのです。それなら空気の流入を遮断すればとなると、暖かい空気とともに煙も排出されないので、部屋の中は燻されてしまいますし、第一酸欠になってしまって居られたものではないでしょう。煙突を持たない日本の囲炉裏も同様で、古民家などは屋根と壁の間に隙間が空けてあり、煙を戸外に逃がすように作られています。

 

典型的な暖炉。レンガで組まれ、表面にタイルを貼り、木製のマントルピースを嵌め込んだ贅沢なもの
典型的な暖炉。レンガで組まれ、表面にタイルを貼り、木製のマントルピースを嵌め込んだ贅沢なもの

絵本や映画のシーンなどで赤々と燃える暖炉の前のロッキングチェアに座って編み物をする老婆の姿を見ると、必ずといっていいほど背中には大きなショールや毛布がかけられています。囲炉裏端でもドテラ等を着込んでいる姿が頭に浮かびます。つまり暖炉というのは、暖房に利用しているのは炎の輻射熱のみ、発生した熱量のほとんどは利用されることなく速やかに戸外に排出してしまっているのです。

 

現代、暖炉というとこのタイプを指すことが多い。ガラス張りストーブといったところだろうか
現代、暖炉というとこのタイプを指すことが多い。ガラス張りストーブといったところだろうか

同じ薪や石炭を燃やして暖房とするなら、薪ストーブのほうが圧倒的に高効率。燃焼に使う空気の供給量を調整することで燃え方をコントロールできる上に、その熱量を金属のボディに蓄えて、効率的に部屋の空気を暖めます。少ない燃料で、空気を汚さず無駄なく部屋全体を暖めることができるのです。にもかかわらず西洋では暖炉の方が圧倒的に一般的。多くの建物に設置されてきたのには、それなりの訳があります。

 

暖炉に出会った我々日本人は、その主目的は暖房の為と思ってきました。薪が爆ぜ、炎が揺れるその様に安らぎと憧憬を抱いて、贅沢な暖房器具として認識してきました。確かに、西洋人も狩猟民族として定住することなく暮らしていた頃は、焚き火は生きていくために重要なものだったことでしょう。その頃の記憶が潜在意識に残っていて、暖炉に特別な執着をもつのかもしれません。しかしそれだけではないのです。もともと暖炉は暖房器具としてだけではなく、他に大切な役割を担っていたのです。それについてはまた次回に・・・

 

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