ようこそアンティーク・マーケットへ

最近買ったというイギリスのディーラーの家へ招かれました。元は領主の家だったらしく、町を見渡せる小高い場所に立つ、贅沢に作られた19世紀初期の建物です。義務教育を終えるとボロトラック一台からこの仕事で頑張って、この地方で一番おおきなウェアハウスを構えるまでになった彼の自慢のお屋敷です。一通り中を案内された後、食事の前に風呂でもというので、有り難く使わせてもらうことにしました。

 

着替えをもってバスルームに向かおうとすると彼は「悪いな、近々工事する予定だけど、まだビクトリアン・スタイルだから、気をつけてくれ」と言います。さっき見せてもらっていたので風呂場の様子は判っています。床と壁にパインの板が貼られた6畳ぐらいの部屋で、正面の大きな窓の下にタオル等の入ったチェストが置かれています。両端にそれぞれ便器と脚付きのバスタブがあり壁から蛇口が2個でているだけ。シャワーもありません。多分、お湯を溢れさせるなという注意なのでしょう。

薬剤を入れてからお湯を注ぐとこのように。寒い地方では必需品だったようです。
薬剤を入れてからお湯を注ぐとこのように。
寒い地方では必需品だったようです。

 

この西洋式のバス・スタイル、最初は随分と戸惑いましたが、さすがにもう馴れたもの。前に書いたように現地の連中は石鹸は身体にいいと思っているようなので湯船の中で泡だらけになって髪と身体を洗って、それをタオルで拭き取って平然としていますが、こればっかりは真似する気になりません。一回お湯を捨てて、再度湯を張って濯ぐ様にしています。

 

CM等で泡だらけの風呂で寛ぐ姿を見ると、随分贅沢なことをするなと思ったものでしたが、実際に使ってみると、これは大きな勘違い。洋式の風呂桶は浅く、細長く人間の身体に近い形になっているので、日本の角張った浴槽に比べれば、その水の量は数分の1でしょう。それはバスタブにお湯をためる時間で実感します。泡はその少ないお湯が冷めるのを防ぐ為のもので、広い水面から熱が逃げないように蓋をする、いわば、広東麺にかけられた片栗粉のトロミのようなものなのです。しかも昔はそのお湯だけですべてを終わらせてしまう。シャワーを使うようになってもバスタブの中でのことなのでその量はしれています。現代の日本に多い、深く角張った風呂桶にたっぷりとお湯を張り、洗い場ではじゃんじゃんシャワーを垂れ流すというスタイルのほうが、たとえ家族で使ったとしても遥かに大量の水を使っていることでしょう。優雅にみえる西洋式のバス・スタイルは水資源に乏しいことから必然的に生まれてきたものなのです。

現代も売られている脚付きバス。浴槽に蛇口とシャワーがついているが、昔はただ桶を置いただけで、蛇口は壁か床から立ち上がったパイプに取り付けられる。
現代も売られている脚付きバス。
浴槽に蛇口とシャワーがついているが、
昔はただ桶を置いただけで、
蛇口は壁か床から立ち上がったパイプに
取り付けられる。

 

蛇口を捻ってお湯を出し、ゆったり浸かります。寒い季節だったので身体が温まる頃には、かなりぬるくなってしまいます。手早く髪と身体を洗い、ざっと浴槽のお湯で流すと、栓を抜き汚れた湯を捨ててから再度蛇口を捻りました。ところが少しするとだんだん冷たくなってきて、遂に水しかでなくなってしまいました。仕方なく冷たい水で身体を濯ぎ、震えながら服を着て暖炉のあるリビングに急ぐと彼がワインを飲んで寛いでいます。炎で暖をとりながら途中からお湯がでなくなったと伝えると「だから、ビクトリアン・スタイルといっただろ」と平然としています。ビクトリアンスタイルとはシャワーも無い当時のバス・スタイルに合わせて、ボイラーには1杯分の容量しか無いということだったようです。

 

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