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「家のソファを革で張り替えたいんだけど・・・」と友人から相談を受けました。「最近は安いのも出ているから、買い替えたら」とあからさまに嫌そうに答えるボクに対して「判っているよ。だけど仕方ないんだ。今のソファ、デザインや座り心地は気に入っているんだけど、犬の毛が絡んじゃって、いくら掃除しても取りきれないんだよ。不用意に座るとその毛が移るんで、お客さんに勧められないんだよ。その点、革なら掃除が楽だからね」彼はイギリス生活が長く、オークショニアの仕事に関わっていたこともあるので西洋の風俗伝統に明るく、ボクの言わんとしていることの想像がついているのです。

 

元祖革張りソファといわれているチェスターフィールドソファ。ボタンで留めたデザインが特徴。
元祖革張りソファといわれているチェスターフィールドソファ。
ボタンで留めたデザインが特徴。

革張りのソファと聞くと、ほとんどの方は贅沢な高級品というイメージをお持ちなのではないでしょうか?しかし、実際に座ってみて先入観無しに快適だと感じる方がどれぐらいいらっしゃるのでしょう。少なくともボクには、ソファの本来の目的である横になって寛ぐ、ゆったり座るという用途には向いていないのでは、と思われるのです。つるつる滑って収まりが悪い上に、冬は冷たく夏には汗でぺったり張り付いて、不快なことこの上ありません。その上、好き嫌いはあるものの革独特の臭いがするなど、あまり良いことがありません。実際、ヨーロッパの一般家庭に革のソファが置いてあるのを見た憶えがありません。それどころか、日本ほど革を使った衣料品や服飾品ですら一般的でないような気がするのです。全く見掛けない訳ではないのですが、やはり、一定の趣向をもった人たちが多く、誰でもという訳ではないようです。

 

狩猟民族であった西洋人が、食料として捕獲した動物からの副産物として、その皮革を利用したのは当然のことでしょう。当初は、体毛もそのままの毛皮を防寒の為などに使ったのでしょうが、鞣しの技術の発達とともに、その耐摩擦性、引っ張り強度など、耐久性に優れた点を活かす使われ方をするようになります。履物、ベルト、トランク等がすぐに思い浮かびますが、他にも服の肘当てのように保護材として、さまざまなものに組み合わせて使われました。馬具の材料としては昔から欠かせないものでしたし、近年では軍隊の装備品として多いに利用されてきました。変わったところではパッキンやシール材としての利用。空気入れる円筒形の手押しのポンプの筒の中を往復する棒の尖端には、弁となるように革を取り付けられていたものです。

 

頭や身体を預けられるように背の両側に羽を広げたようなデザインからウィングチェアと呼ばれる。ボタンの飾りが無い物も多い。
頭や身体を預けられるように背の両側に羽を
広げたようなデザインからウィングチェア
と呼ばれる。ボタンの飾りが無い物も多い。

このように、革は高性能ではあったかもしれませんが、贅沢なものというよりは、その特性から必要に迫られて使われてきたのです。それもビニールレザーやゴム、樹脂の発達で、用途によっては革を上回る特性の物も増えてきて、どんどん置き換えられるようになりました。もちろんコストや取り扱いが楽だからという場合もあります。しかし、それだけではありません。天然の皮革は水に弱く、手入れが面倒という弱点もあったのです。実際、高級ブランドのバックなどには、ナイロンやビニールを使ったものが多く、耐熱、耐水、柔軟性等に勝る特別に開発されたこれらの化学素材は、革よりも高価な生地であることも珍しくありません。ただ耐摩擦性だけは革に勝るものは少ないようで、コストパフォーマンスに優れた補強材として使われ続けています。サーキットを走るオートバイ・レーサーの装具は天然皮革以外の素材の使用が認めていません。万一の転倒時、高速でアスファルトの上を滑っていく生身の人間を守るには天然皮革以外には荷が重いようなのです。

 

そんな革素材がソファや椅子、デスクトップなどの調度品に使われるようになっていくのは、擦れに対する耐久性だけではなく、汚れがつき難く、汚れても目立たないという点も大きな要因。工場やオフィスなど、汚れやすくて不特定多数の人が使うような場所にはうってつけだったのです。自動車のシートに革が使われたのも同様な理由からです。昔は、自動車を走らせるということは汚れ仕事でした。ですから、シェーファードリブン(運転手を雇って走らせる車)たるロールスロイスでは、使用人が座る前席は革張りでも、主人が使う後部座席に布地が張られ、革のシートが装備されることはなかったのです。

 

肉食が一般的でなかった日本では、革の供給は限られたものでしたから、専ら鎧や刀などの武具のパーツとして使われてきました。そういった環境では海外から紹介された皮素材を使った衣料品や調度品は新鮮で魅力的に映ったことでしょう。新興国であったアメリカで革製品がもてはやされていたのも大きな要因だったのかもしれません。たちまち憧れのアイテムとなって、その目指した目的とは異なった方向に育っていったようです。

 

 

 

 

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