イタリア、ラヴェンナの悠久の時間を感じながら・・・モザイク散歩

京都造形芸術大学芸術学研究室勤務後、イタリア・ラヴェンナに渡りモ ザイク工房ココ モザイコにてアリアンナ・ガッロに師事。 工房ではモザイク技術の習得と同時に日本からのモザイク研修などをプ ロデュースする。帰国後は東京でモザイク工房モザイコカンポをオープン。 銀座・エコールプランタンや、イタリア語語学学校等でモザイク教室を 開講、美術館や大学でのワークショップも随時開催。
モザイコ カンポ/Mosaico Campo(東京)https://mosaicocampo.com/
ココ モザイコ/Koko Mosaico(イタリア ラヴェン ナ)https://kokomosaico.com/

vol.8モザイク旅日記 ローマ編 マッシモ宮

ここ最近は2年に一度、イタリアへ行く事にしています。2年ごとにラヴェンナでモザイクフェスティバルが開催されるようになったのも理由の一つですが、この2年というのが私には丁度いい。そろそろ材料箱の底が見え始めるし、買い込んだ本にも一通り目を通せるので、また新しい本が欲しくなる。そして何より、ゆっくりとモザイクの前に立ちたくなるのです。

 

前回はラヴェンナとヴェネツィアだったのですが、今回は、ローマ、ラヴェンナ、ヴェネツィアの三都市。ヴェネツィアではちょっと足をのばしてトルチェッロ島や、念願のアクイレイアにも。ラヴェンナはもちろん、ローマもヴェネツィアもモザイクだらけの街です。ローマには古代ローマ時代の貴重な遺産や中世の教会モザイク、ヴェネツィアは材料を産するからこそのモザイク。それぞれの街の歴史と密接に関わるモザイク達を、これから数回に渡ってご紹介したいと思います。

 

ローマに到着したのは11月の初め。昼間は半袖、夜はダウンを着込んで、というような気候です。今回のローマでの主な目的は、古代の大理石床モザイク巡りと資料収集。


宿はテルミニ駅近くにとりました。交通の便が良いから、というのもあるのですが、実はテルミニ駅近くにはモザイクの宝庫があるのです。それが今回ご紹介するマッシモ宮です。

 

Palazzo Massimo、マッシモ宮。ローマ市内に3つある国立博物館のうちの一つ。収蔵品はローマやその周辺から発掘された古代彫刻やフレスコ画、そして大量のモザイク!

 

奥がチケット売り場。まだ展示ゾーンじゃないのに...


奥がチケット売り場。まだ展示ゾーンじゃないのに...

まずは入口でチケットを購入し、簡単なセキュリティチェックを受けて展示ゾーンへ向かうのですが、既にそこには巨大なモザイク。フライング気味に怒涛のモザイクシャワーがスタートです。

 

マッシモ宮は中庭を囲んで建っています。中庭をぐるりと囲む回廊が各部屋をつないでいるのですが、 その回廊の壁がモザイクで埋め尽くされているのです。

 

中庭
中庭
回廊。ずーっとモザイク。博物館スタッフさん達はずーっと世間話。丸聞こえ!
回廊。ずーっとモザイク。
博物館スタッフさん達はずーっと世間話。丸聞こえ!

 

それでは、モザイクをご紹介。

 

1.幾何学バラ模様床モザイク

バラをはじめとする色んな花が縄の幾何学模様内に配置されています。

このバラ、左下の花弁がちょっと窮屈そう。もしかして目測を誤ったのかと想像すると...。

 

紀元125-150の作品
紀元125-150の作品
左作品のアップ
左作品のアップ

2.鳥と壷の床モザイク

四角く区切られたスペースに鳥や壷が配置されている、渋めのモザイク。実はこの中の壷の一つを教室の

生徒さんが作られました。ハートがキュート。

 

紀元3世紀の作品
紀元3世紀の作品
アトリエ教室生徒さん作品 壷
アトリエ教室生徒さん作品 壷

3.ナイルの風景床モザイク

円の中に、ローマ人が大好きなナイルの風景が描かれている白黒の床モザイク。このワニなんか、たまり

ません。色々と精一杯な、ワニ。

 

紀元2世紀初頭の作品
紀元2世紀初頭の作品
左作品のアップ

4.幾何学床モザイク 中心にエンブレマ

こちらは今までのモザイクとは違い、2つのパーツに分かれているものです。白黒の幾何学模様の中心

にエンブレマと呼ばれる、非常に繊細な色合いのモザイクがはめ込まれています。


紀元前1世紀の終わりから紀元1世紀の初めの作品
紀元前1世紀の終わりから紀元1世紀の初めの作品
エンブレマ

鶏や魚、フルーツなどの食材が美しいグラデーションで表現されています。これだけの色数を使って、これだけの細かい表現をしたモザイクは周囲の白黒幾何学モザイクに比べて格段に高価。だからこの部分は取り外せるように施工されています。私も引っ越す時は絶対持って行きたい。

また、ローマ時代はどのような部屋だったか分かるように、フレスコ画と一緒にモザイクを展示しているゾーンもあります。カラフルなフレスコの壁に、モノトーンモザイクの床。おしゃれ過ぎ。

 

もちろん階段踊り場の壁だって遊ばせていません。壁があれば、とにかくモザイク。

 

 

モザイクだけの為にも2〜3日通いたいくらいの密度。今回ご紹介したのはほんの一部です。もしモザイクに興味をお持ちでしたら、ローマでここを外す手はありません。ミュージアムショップの本の品揃えも素敵です。

 

写真からも見て取れるかもしれませんが、こんなに素敵な博物館なのに、比較的人が少ない。ツアーなどに組み込まれる事が少ないのでしょうか、とにかくゆっくりじっくり滞在出来ます。好きなモザイク独り占めも余裕。

 

じっとモザイクを見つめていると、1000年、2000年という気が遠くなるような時間をふっと飛び越えて、当時の職人達に寄り添うような、そんな感覚を覚えます。バラの花びらを歪ませちゃってとっさに誤摩化したり、見たことがないワニを精一杯想像して作ったり...きっと話が合うと思うんですよ。そんなモザイクの上で、色んな家族が生活を営んでいたのです。綺麗なバラより、歪んだバラの方が気に入っていた貴婦人がいたかもしれないし、きっとあのワニの事が大好きだった少年もいた...はず!

 

そんな想像をしていると、モザイクの前から動けなくなってしまいます。マッシモ宮に行かれる際は、どうぞお時間に余裕をもって...