イタリア、ラヴェンナの悠久の時間を感じながら・・・モザイク散歩

京都造形芸術大学芸術学研究室勤務後、イタリア・ラヴェンナに渡りモ ザイク工房ココ モザイコにてアリアンナ・ガッロに師事。 工房ではモザイク技術の習得と同時に日本からのモザイク研修などをプ ロデュースする。帰国後は東京でモザイク工房モザイコカンポをオープン。 銀座・エコールプランタンや、イタリア語語学学校等でモザイク教室を 開講、美術館や大学でのワークショップも随時開催。
モザイコ カンポ/Mosaico Campo(東京)https://mosaicocampo.com/
ココ モザイコ/Koko Mosaico(イタリア ラヴェン ナ)https://kokomosaico.com/

vol5.もう一度つくる

 

riproduzione / リプロドゥツィオーネ

 

 1.複製、模造、模刻

 2.再現、表現

 (小学館 和伊中辞典)

 

リプロドゥツィオーネ。もう一度つくること。

イタリアでモザイクを学ぶなら、このリプロドゥツィオーネが入り口です。私の教室でもこれが入り口。

 

筆者制作中リプロドゥツィオーネ作品 ラヴェンナ ガッラプラチディア 「水を飲む鳥」
筆者制作中リプロドゥツィオーネ作品
ラヴェンナ ガッラプラチディア
「水を飲む鳥」

モザイク遺跡の写真などを横に置き、じっくりと観察して一つ一つのテッセラの形、テッセラとテッセラの隙間の形に気を配り、細部と全体の調和をとりながら作品を作り上げること、そしてその作品のことをそう呼びます。もしかしたら書道における「臨書」に似ているかもしれません。

モザイクを観察していると、例えそれが紀元前に作られたものだとしても、ぴょんと時間の壁を飛び越えて、そのモザイクを作った人間の手の動きを感じられる時があります。これがリプロドゥツィオーネの第一歩。

テンポ良く作れただろうなあ、と思う部分もあれば、ここは苦労しているな...という部分も。上手な所には圧倒されるし、ちょっとズルしている所を見つけたらニヤリ。2000年前のズルなんて、楽しいと思いませんか?

じっくりと、しっかりと
じっくりと、しっかりと

テッセラの形、隙間とのバランス、石の流れのテンポ...漠然とテッセラの集合体としてモザイクを見るのではなく、ぐぐっと集中して観察するとそこには沢山の情報が詰まっています。これらの情報をしっかり吸い込んで、自分というフィルターを通してもう一度作る。これが何より勉強になるんです。

ラヴェンナではリプロドゥツィオーネの際に、「metodo a rivoltatura」という技法を主に使います。他の技法に比べると、とっても作業が多くて面倒ではあるのですが、より忠実に作る為には一番の技法です。セメントのように固まってしまわない、石灰で出来た仮土台に作るので、じっくりと、数ヶ月だって作り続けられ、観察し放題、修正し放題。具体的には、どのような手順かというと、

 

 

手順3を行っているところ
手順3を行っているところ

1. 作りたいモザイクの写真などを準備し、トレーシングペーパーにテッセラ一つ一つを丁寧に写し取る。
2. トレーシングペーパーのインクをカルチェ(石灰ペースト)の仮土台の上に転写。
3. 写真など見本になるものを観察しながら、大理石やズマルト(モザイク用ガラス素材)のテッセラを割り作り、カルチェの上に並べる。
4. 並べ終わったらテッセラの上にガーゼを貼付け、ガーゼにテッセラが完全に接着したら裏側のカルチェを取り除く。
5. カルチェの取り除き終わったら、代わりにセメントを塗り乾燥したらガーゼを剥がし、完成。

手順1のトレーシングペーパーに写し取る作業だけで1週間かかることもあれば、一番のメインである手順3の作業の、カルチェに水分を随時追加することによって、この工程に何ヶ月だって費やせます。

2000年前のモザイクを作った人には、もう絶対会えません。でもこの作業をしている時間は、「ここ難しいよね、分かる分かる」、なんて共感する事が多く、まるでその人と寄り添っているように感じます。

 

生徒さん作品 ローマ サンクレメンテ 「イルカに乗った少年」
生徒さん作品 ローマ サンクレメンテ 「イルカに乗った少年」

もちろん新しいモザイク、創作で作品を生み出すことも大事だけれど、モザイクをやってみたいと思われる方には、この入り口をぜひ経験して欲しいですね。しっかりと時間をかけて。どんな歴史書よりもその当時を身近に感じられる、わくわくする体験ですよ!