イタリア、ラヴェンナの悠久の時間を感じながら・・・モザイク散歩

京都造形芸術大学芸術学研究室勤務後、イタリア・ラヴェンナに渡りモ ザイク工房ココ モザイコにてアリアンナ・ガッロに師事。 工房ではモザイク技術の習得と同時に日本からのモザイク研修などをプ ロデュースする。帰国後は東京でモザイク工房モザイコカンポをオープン。 銀座・エコールプランタンや、イタリア語語学学校等でモザイク教室を 開講、美術館や大学でのワークショップも随時開催。
モザイコ カンポ/Mosaico Campo(東京)https://mosaicocampo.com/
ココ モザイコ/Koko Mosaico(イタリア ラヴェン ナ)https://kokomosaico.com/

vol.15 モザイクあつめ

 

すっかり梅雨も明け、青空広がる東京地方。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
月に一度のご挨拶、モザイクコラム「モザイク☆モザイク」もかれこれ14回目を数え、つまるところは季節をぐるりと巡って余りも出ちゃうような状況なわけですが…どうでしょう? そろそろモザイク作りたい欲に苛まれていらっしゃる頃合いではないでしょうか(願望)。

 

そんな皆さまのお気持ちにお応えせんと、今回はモザイク作りにおいて大切な「モザイクあつめ」についてお話しようと思います。

 

 

「ああ、モザイクが作りたい!」この、遅かれ早かれ誰もが一度は体験する衝動。ここからどう進むかによってその方のモザイク人生は大きく変化いたします。例えば、お年玉を全額投入し大人買いしたキューブタイプチョコレートを、体育館の床に並べ敷いても一種のモザイクですし、「この石を家まで蹴り続けられたらホニャララ」なんて、毎日の願掛け対象の小石を365個集めて、ご自宅のお庭をアヴァンギャルド石庭に作り替えたら、それはモザイク行為。

 

しかし、もし「古代ローマ貴族の邸宅を飾ったようなモザイク」だったり、「初期キリスト教時代の聖堂を彩ったモザイク」なんていうものを作りたい、とお考えでしたら、まずは「モザイクあつめ」、つまり、画像資料の収集がとても大事。正確にそのモザイクを再現するために、テッセラ(石片)の形までしっかりと写し取る必要があるのです。

 

このようにトレース。鶏が居るのが分かりますか?"

このようにトレース。鶏が居るのが分かりますか?

 

伝統的にはcartoneというモザイクを正確に写し取った彩色下絵を基本的モザイク資料としてきたのですが、最近は写真資料をそのまま下絵とすることが増えてきたようです。

 

2011年 Palazzo Massimoにて"

2011年 Palazzo Massimoにて

 

例えば、上記の写真のモザイクですとラッキーなことに、とても近くで見られて、更には真正面から撮影出来ているので、下絵としてすぐ使えるような写真を撮影することが出来ました。しかし、すべてのモザイクがそのような状態で展示されているわけもなく、近くで見ることは出来るけれど正面からは撮影出来なかったり、正面から撮影は出来るけど、間に障害物があったり…さまざまです。

 

目線より上に作りたいモザイク発見!

目線より上に作りたいモザイク発見!

正面撮影は難しい…

正面撮影は難しい…

 

遺跡の上に、透明の歩ける通路

遺跡の上に、透明の歩ける通路

恋いこがれた魚モザイクなれど、間の透明板が邪魔

恋いこがれた魚モザイクなれど、間の透明板が邪魔

 

しかし、どうぞご安心ください。うまく撮影出来なくても、他の方法で資料は手に入ります。

 

まずは、本。例えば上のアクイレイアの魚モザイクですと、写真でご説明した通り遺跡に行っても障害物があって、なかなかその正確な像を撮影することは難しいですが、どうぞ落ち込まずに、聖堂裏にひっそりと佇むお土産屋さんに行ってみてください。

 

見逃しがち

見逃しがち

 

そこには『I MOSAICI DELLA BASILICA DI AQUILEIA』という、素晴らしい本が貴方を待っています。

 

使い込んでヨレヨレ…

使い込んでヨレヨレ…
『I MOSAICI DELLA BASILICA DI AQUILEIA』 CISCRA

 

今はもう、通路の下に隠れてしまったモザイクや、湿度のせいで傷んでしまったモザイクたちの、在りし日の姿が詳細に克明に写し取られたモザイク写真集。しかもすべて正面から撮られているのでモザイク下絵資料として利用価値が非常に高い。ちなみにこの本は、ラヴェンナやローマ、ヴェネツィアなどでは見つけることかなわず、唯一アクイレイア聖堂裏のこのお土産屋さんのみで発見。

 

障害物が無くても、遠すぎて撮影出来ない…というモザイクの代表格としては、ヴァチカンのサンピエトロ大聖堂内モザイクが挙げられます。あの巨大な空間を埋め尽くす壁画という壁画は、実はすべてモザイク。しかしあまりにスケールが大きくて、肉眼だとテッセラまで見ることは難しいです。また、写真に撮影出来る位近づけるモザイクも僅か。そんな時には、この本。

 

ヴァチカン市国内のモザイク工房、一度行ってみたいです

ヴァチカン市国内のモザイク工房、一度行ってみたいです
『SAN PIETRO IN VATICANO I MOSAICI E LO SPAZIO SACRO 』 Jaca Book

 

大聖堂内のありとあらゆる象嵌モザイク、テッセラモザイクの素晴らしい写真がてんこ盛り。建物自体の構造についても詳細に記述されている、サンピエトロ大聖堂ファンなら是非手に入れたい一冊です。この本は、去年ならば、イタリア各都市の大手本屋さんではチラホラ見かけました。

 

また、同じヴァチカンでも、ヴァチカン美術館群に収蔵されているローマ時代のモザイクたちに興味があるなら、こちら。

 

凛々しい!彼とは4年ほど前にラヴェンナの本屋で出会いました

凛々しい!
彼とは4年ほど前にラヴェンナの本屋で出会いました
『VATICANO I MOSAICI ANTICHI』
FRANCO MARIA RICCI

写真中央が表紙のグラディエーター氏

写真中央が表紙のグラディエーター氏

 

この表紙のグラディエーター氏も、本ならばじっくりテッセラを見つめることが出来ますし、正面なのでそのまま下絵制作が出来ます。しかしヴァチカン美術館内では、下のフロアに設置されているモザイクを斜め上から見下ろす展示方法なので撮影可能な写真にも限界が。

 

同じモザイクでも、本によって色合いが違ったりトリミングが違ったりすることもしばしば。資料の数は多い方が良いでしょう。例えばラヴェンナのモザイクのようなズマルトや金といった光を反射する素材のモザイクですと、写真技術、印刷技術で色の見え方が随分と変わります。また、お土産屋さんに売っている絵はがきも資料として活用していきたいところです。

 

例えば撮影禁止な聖堂などのモザイクですと、絵はがきが唯一入手可能なデータだったりします。ヴェネツィアからヴァポレット(水上バス)で1時間程度のトルチェッロ島にある、Santa Maria Assunta。

 

人口はほぼゼロの島に佇む聖堂。

人口はほぼゼロの島に佇む聖堂。

 

外観はからは想像も出来ないような、往時の繁栄を想わせる荘厳なモザイクが内部にはあるのですが、残念ながら撮影禁止。その代わりなのかもしれませんが、お隣の売店では絵はがきとポスターの間のようなモザイク写真が売られています。

 

この夏、ご旅行で海外へ行かれる方も多いかと思います。ぜひ、ローマ帝国の版図であった土地へ行かれる際は、もしかしたらローマ遺跡、モザイクがあるかもしれません。キリスト教の聖堂(含、元聖堂)だったら、内部がモザイク装飾されているかも。もちろん肉眼で見て、その遺跡を体感することが一番素敵だけれど、もし「作りたい!」と思えるようなモザイクに出会えたら、ぜひ写真を撮ったり、本や絵はがきを入手したりしてみてくださいね。それが、モザイク制作において、とても大事な第一歩です。