店の名前は「とりとり」です。初め、いろいろ本を見たりして、いい名前はないかなあと、いっぱい候補をあげ、最終的に二つ残りました。それが「とりとり」と「パパゲーノ」。意味ではなく、どちらも音が気に入りました。好きだった宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のなかに、鳥を捕る人がいて、それが、とりとり。猟師とか言わないで、とりとりというのは、音が面白いと思った。パパゲーノは、オペラからなんですよ。『魔笛』だったかなあ、あれは。知り合いの人が「パパゲーノは、鳥捕りをする人なんだよ」と教えてくれて。たしかに、鳥かごを背負った、鳥を捕る人が歌うオペラだったんです。音で選んだ最終の候補がふたつ、同じ意味でビックリしました。

もう一つ、とりとりに決めた理由は、とりとりが八画で、商売的には末広がりで、エンギがよかったから。ひらがなで書いても、カタカナで書いても、八画。うちの母が、そういうことばっかり言ってましたからね。 …… 開店の日のこと、いやもう何日にオープンしたかも、覚えていませんね。初めはフリーマーケットの延長みたいで、ほとんどリサイクルの洋服とかでした。あと、雑貨が多かった。簡単に手にはいるもので、自分が選んだもの …… ですから、衣類、昭和30年代の食器…… さっきも言ったように、あちこちのフリーマーケットに行って、集めてきて。……

それと、お店を開くと、買い取りのもちこみが、かなりきましたね。衣類は、とくに。私、女子美（術大学）の服飾科なんです。ですから、そんなにかけ離れたことをやっていたわけではない。でもまあ、儲かるとまではいかなくても、まあ、面白くやっていけるかなあ、みたいな。とくに、開店の宣伝もしませんでしたねえ。チラシを少し撒いたくらいで。ごくごく知り合いの範囲に、始めましたよ、と伝えた。それでも、お客さんは来てくれました。