ファサード

岡本太郎の「太陽の塔」が大阪万博のお祭り広場の大屋根を天高く突き抜けていた。現在は太陽の塔だけが象徴的に残されている。
たしか磯崎新が設計したはずだが、その解説で設計を統括した丹下健三が言っていた。「お祭り広場のファサードは天井です」
当時この言葉に少なからずショックを受けた。立面図や遠くからながめる宙に浮いた大屋根は壮観で美しかった。それがファサードだと思い込んでいたから、見上げがファサードと聞いて面食らったのだ。

お祭り広場

ファサードの語源はもちろん「face」。一般には顔とか表情のことだが建築では正面や外観のことをいう。
住宅のファサードはふつう道路側の外観。家の南側は明るく絵になりやすいから広告写真はみな南道路の住宅だ。南道路の家のファサード自体は通りすがりの人の目に入る程度だが、住んでる人はあまり見る機会のない家の裏側は、北側に住むお隣さんからは常に見られている。ならば北面もファサードとして考えるべきではないか。その伝でいうと角地の家のファサードは北面も入れると三面あることになる。
わずかだけ道路に接する旗竿状敷地では旗竿の間口分しか家は見えない。しかも奥まっているからファサードはゼロに等しい。それではさみしいから手前に何か欲しい。神社なら鳥居だろうが住宅ではそうはいかない。アプローチを整えるにしても、入口はどこにでもあるアルミの門扉などではなく、せめて鳥居に代わる何かを考えたい。

自転車置場

途中で段差のある細くて長い「旗竿」の土地。
そのアプローチを少しでも楽しめるように、入口にミニカー用カーポート。
その向こうに屋根のある自転車置場をおいて、鳥居のようにくぐらせる。
くねらせた細い道をゆくと段々の先に玄関ポーチ。ポーチの脇はウッドデッキ。

軒や庇の外観には気を配るものの、軒裏のデザインはおろそかになりがち。軒裏は空間を構成する重要な部分でもあり、見上げるという意味では万博の大屋根と変わらない。
外から見上げた軒裏は、家全体の秩序やバランスに重要な役割を果たす。内からは部屋の天井・軒・そして軒先で美しく切りとられた景色へと、視線を誘導してゆく役割が軒裏にはある。景色をふちどる額縁の役割と言ってもいいのかもしれない。
軒下は、ぬれ縁やデッキ・2階のバルコニーなどと連携して内と外の境目に、内でも外でもない微妙な中間地帯を形成する。内か外かという西洋的な発想と異なる、日本的なあいまいな世界がここにはある。かつての縁側をガラスの外に追い出したような空間と考えるとわかりやすいかも知れない。

ウッドデッキ

家のなかから突き出た梁を利用して深い軒をつくり、デッキへとつながる良質な軒下空間。