廊下?

玄関を上がるとすぐ廊下。
少々土間がひろくても、そんなつくりでは玄関全体としてはせま苦しく、かつ重苦しい。廊下の手前にすこし拡がったスペース、いわゆる玄関ホールがあってはじめて玄関全体にゆとりが生まれる。
階段の上がり口にもゆとりが欲しい。この場合は階段ホール。廊下からすぐ階段では、空間を垂直に移動する楽しみや期待感がそがれる。こころの準備のためにもワンクッション欲しいところだ。
階段を上がりきったところにもホールを設け、気持ちにゆとりをもってその先の廊下や部屋に向かいたい。

古くは庭側の廊下は内と外の境目として、空間をやわらかく仕切るクッションの役割を果たしていた。そこがすこし巾広につくられると広縁と呼ばれ、たんなる通路から部屋でも廊下でもない独特の雰囲気をもつ空間へと変身する。ゆったりとした籐のイスなどが置かれると、そこはすでに立派な広間であり独立した空間となる。旅館の窓際のスペースはこの辺りから発展したものかもしれない。

狭い廊下を拡げても、それが長くつづけば単に広い廊下。短ければ広間風の印象となる。
はばが一間ともなれば、突きあたりの付近はまるで部屋のように感じる。
考えてみれば三畳の部屋は一間はばだ。学生時代の友人の部屋が短い廊下と同じだったと考えると奇妙にも思えるが、たとえ狭小であっても最低限の生活ができるのが三畳の部屋なのだ。
ある作家が「もっとも集中できる空間は、小さな高窓ひとつの三畳の部屋」と言っていたのがわかるような気がする。

神奈川県藤沢市につくった住宅の、吹抜を見おろす廊下。はばを拡げて多目的に利用できるスペースを意図して設計したら、住み手が活き活きとした空間として使いこなしてくれた。
これに意をつよくし、あくる年に設計した千葉県の住宅では、ロフトに一間はばの六畳をつくった。細長い六畳に本棚とデスクを造りつけ、ベッドを入れたら以外というか、案の定というか、自分が住みたくなるような快適空間が出現した。

11亀井野二階ホール

三咲6畳

撮影:岡本茂男