地中熱

土に囲まれてた地下は夏はひんやり、冬も冷えずに一年中快適に過ごせる貴重なスペース。
地球が冷えていた石器時代、人々が洞窟で生活していたゆえんでもある。
地表は太陽熱で暖められる。だから日陰は涼しく夜は冷えるという、わかりやすい構成になっている。木陰や床下が涼しいのも推して知るべし。
地表といっても、浅いところでは昼夜の温度変化も大きいが、深くなれば変化は少なく、地下10メートルともなると年間を通して温度差はなくなる。井戸水が夏つめたく冬あたたかく感じるのはそのため。地中は熱を蓄える。

ちなみに、1000メートルも掘ると地下水もお湯になるそうだが、そちらはマグマを熱源とした地熱のせいだ。地熱と太陽熱がせめぎ合う深さはいったいどのあたりだろうか・・・ミミズやモグラに聞いてみたくもなる。

だいぶ前のことだが、砂利床工法という珍しい基礎工法の家を造ったことがある。「砂利床工法は一年中快適」という情報を得た建て主の要望を採り入れた結果、そうなった。
砂利床工法はその名の通り、床下に砂利が詰まっている。床下の地中熱が熱伝導で砂利に伝わり、床まで届く。床の温度が年間を通してあまり変わらないため、夏でも床の温度は上がらず、部屋の空気の熱を奪う。それで涼しく感じる。冬は冬で地中熱が床まで到達し、床が冷えきることがない。暖房された空気の熱は床を通してその下の砂利が蓄熱する。そのため、暖房を切った後でも急には寒くならない。床下が土ではなく砂利なのはよくわからないが、湿気対策なのかもしれない。
地中熱を効率よく利用できる砂利床工法だが、なぜか普及しなかった。時代が早すぎたのだろうか。

砂利床工法が発展したものとして(おそらく)、人工的に砂利に蓄熱させる蓄熱式床暖房がある。床に近いところにパイプを埋め込み、温水を流して砂利を暖め、そこからの放熱で暖を採る。
床下に蓄熱するところは朝鮮のオンドルと似ているが、オンドルは床下に岩石やレンガをすき間をあけて詰め込み、そこに熱い煙を流して石やレンガに蓄熱する。すき間なく砂利を詰め込んで地中熱を採り込む砂利床工法とは、すこし違うようだ。

砂利床工法の蓄熱式床暖房(以下、砂利熱床暖と省略)の使い方は一般の床暖房とはだいぶ違う。砂利熱床暖では冬の初めにまず砂利に蓄熱させる。蓄熱した砂利が放熱し、家全体が暖まるまで温水を流しつづける。これに2~3日かかるが、その後は1日わずか数時間、砂利が冷めた分だけ暖めなおす。冬の間これをくりかえす。
ONのあいだは暖かく、OFFですぐ冷める一般の床暖房と比べるとエネルギー効率は高い。
家が2階建ての場合、吹き抜けを利用して家全体をまんべんなく暖めるのが効率がいい。
写真の家は土地の形状から吹き抜けをつくれず、砂利熱床暖の特徴を活かすことができない。そのため、1階の床面から2階の天井面までパイプで結び、ファンを使って1,2階の空気を強制的に循環させている。

逗子・全景

逗子・書斎

撮影:藤塚光政