井戸の効用

田んぼなどの農業用水も井戸水でまかなっている。そんな場所があるということを最近知っておどろいた。
その地域では町の水道も地下水というほど、井戸水が豊富で水質も良いそうだ。

融雪に地下水を利用しているところも多い。新潟は井戸が浅いせいかなのかどうなのか地下水の色が茶色く、それが歩道の縁石や横断歩道の白線をまだらに染めている。そのせいで、雪のない時期は町全体がセピア色の景色になっている。
いっそのこと、コンクリートを茶色の地下水で練ってやれば、街が美しいさび色に変身するなどと考えるのは浅はかか。
長岡市に住宅を建てたとき、基礎のコンクリートに試しに井戸水で色を付けてもらおうと思ったが、残念ながらやってもらえなかった。

開発途上国に上総(かずさ)堀りという千葉県伝統の井戸掘り技術を持ち込み、開発を支援している団体があるそうだ。上総堀りというのは、やぐらを組んで巨大な糸車に長くつないだ割竹を巻き、少しずつ地面に押し込んでいく掘り方。人力だけで井戸を掘れるから途上国向きなのだろう。太陽光発電と組み合わせてポンプアップすれば、井戸の汲み上げも苦にならないだろう。電気があれば夜も明かるく、情報通信も可能だ。天に太陽、地下に水。人々の生活は、自然を利用して支えるのが理想の姿と思う。

いざという時どうしても欲しいものとして情報、明かり、熱源、等々あるが最後の命綱はやはり「水」。手押しポンプの付いた井戸が本命だ。
災害時に飲料水として利用するため、小中学校や公共施設に井戸を設置しているところがある。目立つところに置き、いざとなれば誰もが使えるようにしている。それなのに目立たない色や形にしているのを見かけるが、それは見直すべきことだろう。
自治体によっては住宅に井戸を新設すると補助金が出るところもある。第三者が使いやすい場所に設置するという条件もついているが、大いに推進すべき施策と思う。

千葉県成田市に建てた家の建て主の要望はたったひとつ「緊急時の井戸」。それ以外はすべてまかせてもらった。さして広くもない中庭にデンと座った井戸ポンプは、本体はともかくコンクリート製の台が見苦しい。造園の秋山さんに「植木でうまく隠して」と頼んでおいたら、なんとコンクリートが苔むしているではないか! 苔は自然石と思い込んでいた自分が恥ずかしい。

緊急時は来ないに越したことはない・・・

成田の井戸・夕景

井戸(昼):広風苑提供

上総堀りやぐら:ウィキペディアより

<写真>
井戸(夕・昼):広風苑提供
上総堀りやぐら:ウィキペディアより