三次元の中庭

周辺を2階建・3階建に囲まれているような住宅密集地では敷地内に充分な日照や通風を得ることはむずかしい。そんな環境での家づくりでは2階にリビングをもってゆくという発想をするのは当然のなりゆきといえよう。
リビングやダイニングでは、視界を拡げたいし冬場の日照もほしい。だから開口部はおのずと大きくなる。それにともない雨の吹き込みや直射日光をさけるのに軒や庇が必要となる。
ガラス拭きも考慮しなければならない。外側を拭くには軒下を利用する。1階なら濡れ縁でいいけれど、2階となれば手すりが必要だからバルコニーということになる。軒下の濡れ縁やバルコニーは内と外を視覚的につなぐ重要な仕掛けでもある。
上から見下ろせば地面も目に入るが、地上自体がなんとなく遠い存在になってしまい、もったいない気もするし、どうにかして近づいてみたい気にもなる。
庭のかわりにバルコニーを拡げてウッドデッキにし、アウトドアリビングとして活用するのもいい。しかし、デッキのおかげで空は拡がってもデッキの分だけ地面は小さくなってしまう。
2階のデッキには目かくし塀を兼ねた風よけのおかげで、冬の陽だまりができたり、夏は押し込んでくる風が通風をよくしてくれたりする。それなりに快適ではあるが、それでもやっぱり地面は恋しい・・・

家のなかに中2階があるなら中庭にも中2階があってもいい。
2階建ての中庭はもともと吹き抜けのようなものだから、中間のレベルにデッキがあれば1階と2階をつなぐ場となる。地面も間近になって快適だし、中庭の中2階は使い勝手のよい広い踊り場のようでもある。濡れ縁やバルコニーが内外をむすぶ空間の仕掛けなら、踊り場は上下をむすぶ空間の仕掛けといえる。

動物にも人にも、見えていると行ってみたくなるという習性がある。だったら行きたくなりそうな場所をつくってそこが見えるように仕掛ける。それが設計でありデザインの基本だ。
踊り場と、そこにつながる段々が視界に入っていればつい行きたくもなる。木陰になっていたり、地面から伸びた枝先にチョウチョが舞っていたりすれば、そこまで降りていってたわむれてみたくもなる。
活用しやすいようにベンチやテーブルが仕掛けてあれば踊り場での読書も思いつくだろう。コーヒーやワインをお供に・・・
その先の段々を降りれば1階の濡れ縁にたどり着く。動線が単調にならないように踊り場や段々をつなげてやると、移動するにつれて中庭の景色がかわる。回遊式庭園ならぬ三次元の回遊式中庭が出現する。
下までたどり着いたら、戻りもまた楽しめる。

三次元の中庭

撮影:大野正博