ふたたび、ミロンガ

ミロンガ

山口瞳さんのエッセイに「神田駿河台界隈」というのがある。

書き下ろしの長編小説を書くために、山の上ホテルに滞在する。カンヅメである。そのときの話である。

〈コーヒーは三省堂の裏の『ミロンガ」へ飲みにゆく。この「ミロンガ』が昔の『ランボー』である。〉
と書く。そして、そのあとは、こんなふうだ。

〈『ランボー』に絶世の美女がいた。彼女が動くと、花が揺れるような感じがあった。それが武田百合子さんである。百合子さんを口説き落とした武田泰淳というのは立派な人だなあと無条件で尊敬した。武田さんは結婚を申しこむときに戸籍謄本を持っていったという。なにごとも正攻法でいかなければ駄目だと思った。〉

ミロンガとラドリオは、広い通りから一本入った路地にある。あの路地のなんとも言えない、ちょっと日の陰った空気が、作家たちを誘い込むのだろう。