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『金沢ばあばのまほう手帖』置いてくださっている本屋さん

旬の献立や掃除の工夫、季節のきまりごとなど暮らしの知恵をご紹介する『金沢ばあばのまほう手帖』。

金沢ばあばのまほう手帖

 

81歳のスーパー主婦マスダさんは、地元の旬の食材を水にさらしたり、塩で揉んだり、寝かせたり、よく和えたり……ちょっとしたひと手間や盛り付けで献立をぐっと美味しくお洒落にしてしまいます。あたりまえにしてきた習慣を忘れずに続けることや身の回りのことを大切にする気持ちが、周囲の空気を清涼なものにしたり、あらゆる命に感謝をもつ実践になっているのだと気づかされます。そんな家事の蓄積を彗星倶楽部の中森あかねさんが丁寧に聞き取りし、画家の武藤良子さんが素敵な絵を描いてくださって誕生した本です。

置いていただいている本屋さんを少しずつご紹介していきます。

 

古書善行堂さん

古書善行堂

ジャズの流れる空間で背表紙を眺めているだけで時間が経つのをすっかり忘れ、どんなジャンルの本を探していても何かしら+αでこたえてくださるご店主の山本さん。ここがきっかけで古本に嵌った方も多いはず。本にまつわるエピソードは何度聞いても落語のようで面白く聞き入ってしまいます。コロナを期に始めた善行堂倶楽部というオンライン選書も大人気。本をつくる人、読む人、皆さんから頼りにされる存在です。

 

 

 

マヤルカ古書店さん

マヤルカ古書店

移転される前も、移転されてからも、昔からずっとそこにあるような存在感の本屋さん。バリエーションに富んだ本棚はずっと眺めていたくなります。店内のあちこちにある民芸品や、2階で開催される展示も楽しく、ご店主の中村さんが独自の切り口で選ぶ新刊コーナーも必見と見所たくさんで、あっという間に時間が経ちます。大人になっても、本屋さんは胸がときめく場所なのだと思い出させてくれます。

 

 

レティシア書房さん

レティシア書房さん

古書、新刊、ギャラリー、そして全国各地のリトルプレスが並ぶ店内。さまざまな装丁や言葉遣いのZINEが放つ静かなる熱気に刺激をうけます。ご店主の小西さんの店長日誌には、毎日愛のある本や映画や音楽の紹介文を丁寧に書かれ、読みたいもの観たいものがまた増えていきます。『金沢ばあば』のことも書いてくださり「この本やったらこんな本屋さんに持って行ってみたら?」と素敵な本屋さんをいくつもご紹介くださり、とても励まされました。

 

1003さん

1003さん

神戸元町にある古本、新刊、リトルプレスの充実した本屋さん。好きな作家さんの本、気になっていた本、知らなかった本、知っていたけど再発見した本。こちらの本棚を巡ると未知の世界をぐるりと旅している感覚に陥り、インスピレーションが湧いてきます。車椅子やベビーカーの方でもすんなり通れるように棚と棚の間の通り道が広く、ゆっくりと落ち着いて本を探すことができます。

 

 

花森書林さん

花森書林さん

ジャンル問わず所狭しと並ぶ古書と雑貨がひしめき合い入れ替わり立ち代わり誰かが立ち寄ってご店主に話しかけていく。地域のいろんなことを繋ぐ場所なんだろうなと感じます。新刊は地元ゆかりのある方を中心に、入り口の棚に置かれています。突然の訪問にも関わらず、大事につくられた本をしっかり読者に届けたいという誠実な姿勢でお話を聞いてくださった印象的なご店主さんでした。


花森書林さんをご紹介くださった「おひさまゆうびん舎」は店主の窪田さんがご自身で手作りした絵本の世界が立体的に広がる楽しいしかけがいっぱいの店内でした。親子連れの方が次々と訪れていました。

 

 

とほんさん

とほんさん
商店街にある新刊が主の本屋さん。まだまだ知らない本や見過ごしていた本、読みたくなる本がたくさんありました。こんなに新しくいい本が生まれているのなら世の中捨てたものではないなと思います。住んでいても旅していても散歩の途中にこんな本屋さんに出会えただけでテンションが上がりそうです。ところで大和郡山は金魚の産地だそうで、店内には金魚が飼われ、人形がぶら下がっている地元感に和みました。

 

突然の訪問にもかかわらずあたたかく迎えていただき、丁寧に本を見て下さり、応援くださったご店主の皆様、ありがとうございました!一冊の本を届ける小さな旅はまだ続きます。

 


初秋のおすすめ その1

西淑さんのイラストレーションは、ちいさくても地域で環ってゆく丁寧な暮らしをつくり育ていきたいという「チルチンびと広場」が目指すイメージをとても豊かに育ててくださっている。言葉に命を吹き込んで、膨らませ羽ばたかせる魔法のような西さんの絵の世界が存分に味わえる本、『なくなりそうな世界のことば』をnowakiさんで見つけた。知らない国の言葉というだけでもときめくのに、こんなにたくさんの響き、可愛らしい、情感豊かで、ユニークな、逞しい人々の営みをたっぷり吸い込んだ言葉があるなんて!こんなに愛しいたくさんの音が消えてゆこうとしているなんて。だいじなものは刻々と失われていくのだ。そのかけらを少しずつ拾い集めたかけがえのない絵本。開いたとたん夢中になって、どきどき、わくわく、しんみり・・・秋にぴったりのロマン溢れる一冊。我が家の「寝るまえ文庫」に殿堂入りです。

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nowakiさんでは現在「ペットショップにいくまえに」展を開催中。チルチンびとでも連載をしていただいていた絵本作家のどいかやさん、とりごえまりさん、URESICAさんがはじめられた活動に賛同して、毎年この季節に開催される。いろんな作家さんたちがそれぞれ独自の表現でいきものたちへの大きな愛が小さなキャンバスの上で炸裂している楽しみな企画。今年も一点一点じーっと見入ってしまう力作ぞろい!

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こちらのHPからはどいかやさん制作の小さな絵本のようなフリーペーパーがダウンロードできます。犬や猫を新しく家族に迎えたいと思ったとき、お金で買うというのではなく飼い主のいない動物をもらい受ける、ということが当たり前の世の中になってほしい、という切実な思いが、丁寧に描かれた紙面から伝わってきます。売り上げの寄付先でもある、動物保護に尽力されている全国の団体リストもあるので、犬や猫を家族に迎えたいなあ、とお考え中の方がいらしたら、こちらのページをぜひ覗いていただきたいと思います。

 

※展覧会情報

●京都 nowaki ペットショップにいくまえに展 2017「solomon ring」 

9月15日(金)〜24日(日)11時~19時 期間中20日(水)のみ休み

参加作家:片桐水面・さとうゆうすけ・杉本さなえ・たんじあきこ・どいかや・はせがわはっち・樋口佳絵・牧野千穂・町田尚子・MARUU・ミロコマチコ

 

●東京 URESICA ペットショップにいくまえに展 2017

9月21日(木)~10月9日(月祝)12時~20時 火曜・水曜休み 

参加作家:片桐水面・さとうゆうすけ・杉本さなえ・たんじあきこ・どいかや・はせがわはっち・樋口佳絵・牧野千穂・町田尚子・MARUU・ミロコマチコ


ささのはの旅

菓子切「ささのは」は、竹工家・初田徹さんの原点ともいえる形。基本に立ち返ることを忘れず削りつづけて千本。道のりを終えようとするその数本手前の二本が届いた。約3年半前、餞別にいただいたものと並べて、しみじみとしてしまう。

 

sasanoha

 

毎回、竹を通していろいろな気づきをもらえるコラム「あの竹この竹」も43回を迎える。こういう少しずつのたゆまぬ積み重ねは、やり遂げた人にしかわからない境地へ人を連れて行くんだろう。そしてきっと、そこからしか始まらない場所への歩みが、新たに始まるんだろう。背筋がのびるような、嬉しい便りだった。

 


森のお手入れ-林業体験-2016

第22回彩工房 暮らしと住まいのセミナー 森のお手入れ -林業体験-」に行ってきました。雨で肌寒かった昨年とはうって変わって暑いぐらいの晴天の中、参加者の皆さんに一年でだいぶ背が伸びた杉の枝打ちをしていただく。昨年やり残した奥の方まで進み、山主の山本さんや京都大学山仕事サークルの杉良太郎(すぎよしたろう)の方々にご指導いただきながら、二度目の方もおられたせいか、皆さん手際よく枝打ち作業をされていた。

林業体験

お昼は恒例の山菜天ぷらと釜焚きご飯、ダッチオーブン料理、ヨモギ、タケノコ、三つ葉に椎茸、うどに自然薯、採れたばかりのワラビやタラの芽・・・ノンストップでガンガン揚げっぱなし。しまいにはお好みの摘み立て山菜、なんでも揚げますよー!寄ってらっしゃいみてらっしゃい、と天ぷらスタンドに。みなさん山仕事の後でお腹が空いたのか、ぺろりと平らげてもらえた。

ダッチオーブン料理

天ぷら

お昼は恒例の山菜天ぷらと釜焚きご飯

丸太と板で作ったテーブルとベンチでめいめいご飯をたべたり、山菜を摘んだり、たき火でマシュマロを焼いたり、珈琲を飲んだり。新緑の山を眺めながら気持ちいい時間を過ごした。

新緑の山を眺めながら

新緑の山を眺めながら

 

お昼の後は、のこぎり体験。まずは山本さんに北山杉を一本切ってもらい、参加者の皆さんに皮を剥いてもらう。

のこぎり体験

のこぎり体験

これが驚くほど簡単に手でメリメリと剥けて、中からつるんとした綺麗な丸太が出てくる。成長過程にある杉なので、水にずっと漬けていたかのようにたっぷりと水分を含み、生々しくてちょっと触るのが怖いぐらいだった。乾けばそのまま床柱になるような、滑らかで美しい色合いの木肌。枝打ちしたばかりのところは跡が残っているが、数年経つとかさぶたがかぶってへそのようになり、最後にはほかの木肌部分と見分けがつかなくなるそう。生きているんだな、と思う。

のこぎり体験

のこぎり体験

子供たちにのこぎりで切ってもらった。「腰を入れて―!踏ん張って!」「のこぎりは両手で持って、向こうに送るときは軽やかに手前に引く時に力を入れるんやで」「あきらめるなーがんばれ!」とアドバイスや応援を受けながら、一心不乱に集中する子、時々あきらめそうになる子、いろんな表情を見せながら頑張って最後まで切り落とした後はとても満足げな表情。すごい達成感だったんだろうなと伝わった。貴重な山の体験を、ずっと覚えていてもらえたらいいなと思う。子供たちや学生さんがたくさん参加してくれると、森の未来に希望の光が見えるようで、気持ちが明るくなる。

のこぎり体験

のこぎり体験

 

来年は、またどのくらい杉が成長しているのだろう。山菜天ぷらと共に楽しみな恒例行事です。

 


「日本のへそ」から生まれるショール

 

播州織の産地、兵庫県西脇市にある玉木新雌さんのアトリエを訪ねた。ここは東経135度線と北緯35度線が交差する日本列島のど真ん中。京都からだと新幹線で新大阪まで行き、高速バスに乗り換える。隣県ながらちょっとした旅行気分。西脇市に入ると古い建物や、播州織の文字もちらほらと見え、織物の街として栄えてきた風情を残した昔ながらの街並みが現れる。そこを少し過ぎ、上野南のバス停で降りて5分ほど歩くと玉木さんの工房がある。

白く広々とした建物をキャンパスに溢れる色。絶妙な色彩感覚で織りなされるショールやウエアがずらりと並ぶのが外からも見え、建物に入る前からワクワクする。「こんにちは」とおずおず扉を開けるとスタッフさんたちが笑顔で迎えてくれた。スタッフの阿江さんも気さくに話しを進めてくださるので初対面の緊張も完全にほどけてリラックスしながら待っていると、玉木さんが現れた。まっすぐ自然体で、周りを元気にする力がこんこんと湧き出て、全く威圧感がないのに強いエネルギーのある人だった。それがアトリエ中に伝播しているせいか、働く皆さんものびやか、にこやか。生き生きと仕事されているのが伝わってくる。

 

 

真ん中が玉木新雌さん、右隣が海外・広報の阿江美世子さん。スタッフ皆さん、いい表情!

 

 

洋服屋の家に生まれ服飾を学び、東京で服のデザイナーをしていた玉木さんは、はじめは一対一の対面でオーダーメイドの服作りにこだわっていたが、次第にそのやり方には限界を感じ、もっとたくさんの人に「これしかない!」と思うものを見つけて自分なりの着こなしを楽しんでもらいたいと思い始めた。それを可能にしてくれる生地を探し求めていたとき、ある見本市で出会ったのが播州織だった。糸を先に染めてから織る先染めの手法と、縦糸横糸の織りなす細やかな表現に感動するも「繊細すぎて遠目からじゃわからない。もっと大胆な色遣いにしたほうがいいと思う」と、思いついたことをそのままブースに立っていた人に告げると、なんと職人さん張本人。播州織の師匠となる西角さんとの出会いだった。彼は、「ほなそうしてみよか」と玉木さんのリクエスト通りのものを後日わざわざ作ってくれたそうだ。それが今日のtamaki niimeブランドを産み出すきっかけになった。当時、玉木さんが希望したような大胆な色づかいの生地にはあまり需要がなかったが、せっかく作ってもらったものを生かさねば、とそれらを買い取り、自分でこの生地を生かした作品を作ろうと思い、この地に移り住み、古い織機を買い取って、職人さんに教わりながら見よう見まねで生地づくりを始めた。さらりと言うが、この潔さ。どれだけ肝っ玉が座っているのだ!?と思った。

 

ほぼすべて一点もので色合いが違い、手織りのような柔らかで贅沢な触感のショールを、どうしてこれだけ求めやすい価格でしかも大量に作れるのか?聞くと、大量生産をしてきたこの土地では受注ロットも大きく、いくらこだわりを大切にしていても小ロットではコストがかかりすぎる。産業を残していくことも考えてある程度価格を抑えながらオリジナルの物づくりができる方法を考えた。そして昔ながらの機械を使いつつも着物やシャツの生地とは異なる緩い密度で、ふんわりと柔軟性を出す独特の織り方を産み出したのだそうだ。

 

 

完成品は家庭用の洗濯機で少量ずつ丁寧に洗い、色落ちやほつれがないかまで確かめる

 

 

玉木さんは毎日、その日に使う糸の色を決める。棚を見ているとその色が浮き上がってくる。普段から目に入るものはなんでも意識するけれど、わざわざ糸選びのためにインスピレーションの源を探すということはないという。流行も一切無視。体から出てくる色だ。それでも実際に織り上がるものがイメージと違うことはしょっちゅう。そのたびにちょっと待った!と機械を止め、糸を掛けかえることもしょっちゅう。その手間暇をかけたいがための自社工場だ。スタッフさんもニット専門、織り専門、と一応分かれてはいるが、初めのうちはすべての工程を知ることから始まる。現在は、玉木さん一人でなくスタッフ皆さんでデザインや糸選びなどのアイディアを出し合い、次世代を育てることも既に始めている。

 

 

玉木さんの“今日の閃き色”がこの棚に集められる。

 

 

 

 

オリジナルウォーマー only one bosoを製作中のニットご担当者。

 

 

玉木さんのものづくりは、伝統を踏襲しつつもかなり大胆でオリジナル。それゆえ始めは地元からの拒否反応もあったそうだが、常に理解し応援してくれる人もいた。なによりここで生まれたものを喜んで使ってくれる人たちがいた。ともあれ思いついたら試す。自らやれることは全部やる。周りに無理を通さない。これでダメならああやってみよ。玉木さんの辞書に言い訳という文字はない。今後の夢は「日本のへそ」たるこの西脇市から、世界の人にtamaki niimeのつくるものを届けること。そして、世界からこの場所へ遊びに来てもらうこと。そのため秋には念願だったもう少し広い場所に移って、新たな展開を準備中だという。この人ならば無理せず自然に「世界」に手が届くだろう。言葉の隅々にそう思わせる説得力があった。

 

 

 

工場近くに畑を借りて、綿花を育てている。

 

 

話を聞き終え、阿江さんにアトリエを案内していただいた。ガシャンガシャンとリズミカルな織機の音が響く。玉木さんの「閃きの糸」が置いてある棚も、色指示の表もすべてオープン。少し離れたところにあるアトリエで、さらに古い織機を見せていただいた。黒光りした鉄と木の骨組みが重厚堅固で、昔のモノづくりの確かさを物語る。同じ場所では織専門のスタッフさんが熱心に新しい柄を織っている最中。古いものを大事に扱いながら新しい挑戦をたゆまず続ける「温故知新」を体現しているアトリエだった。

 

 

 

古い織機の存在感。細部の歯車まで美しい。

 

 

 

 

機械を細かく調整しながら新柄を織っていく織専門の職人さん。

 

 

最後にお店をじっくり拝見させてもらった。見れば見るほど欲しいものだらけで右往左往しているうちに、不思議なことに自分のためにあるような色が見つかる。身に付けるとふんわり優しく、温かく、バイアスを生かして形が自由自在に変化する。「邪魔くさいのは嫌」という玉木さんの作るコットン作品は、洗濯機で洗ってOKの気軽さもいい。

 

 

グラデーションに並ぶ棚。どの色も欲しくなる。

 

 

2月のプレゼントは、tamaki niimeさんオリジナルの万能ウォーマー“boso”の中から春に向けての4色を選びました。この柔軟性の高さ、色の美しさ、ぜひ味わってください。どうぞお楽しみに。

 


毎日使うモノ選び

 

今月のプレゼント でもお世話になっているロク さんで、昨年の暮れに買ったLAMYの万年筆がとても使いやすい。いままで何度か万年筆を使おうと試み、たぶん筆圧が高いせいかインクが玉のように染みたりペン先が引っかかったりするのが気になって挫折していた。これはドイツで小学生がペン筆を覚えるために入門用として使う物らしい。おかげさまで私みたいな遅れてきた入門者にもぴったり。無駄な力が入らず指も疲れない。

普段、ロクさんにはお気に入り見つけに!と気合入れて行く感じではなくて「あれあるかなー?」と寄ったついでに、茶漉しやクリップ、ファイルなど何かしら「ちょうどいいモノ」が見つかり知らず知らず愛用して、生活の一部になってしまう。

ご実家の金物問屋にあったという年季の入った棚や机がとても空間にしっくり馴染んでいて、古道具も合いそうですね、というと「古い物はすぐに馴染むし、大事に使うという意味でも好きなのですが、作り手さんも含めて今生まれている物をご紹介していきたい。それが次の世代にも繋がるといいなと思って」。その棚に並ぶモノたちに添えられた手書きメモには、作られた場所と簡単な紹介文が書かれていて、不定期に書き変えられる。モノ自体は変わらなくても、使っていくうちに発見があったりするからという。変えないでいると気持が悪いらしい。自ら使い込んでよく理解したものだけをお店に置くのも、「そのほうが楽」だから。にわか勉強をしてよく理解していない情報を詰めこんだりしなくてもすむからだそうだ。その誠実さは、人とモノとのいい出会いにも繋がり、大好きなモノを作ってくれる人たちがずっと作り続けられるようにという応援と願いの表れでもある。

「いま使ってるものが壊れたらあそこで買おう、みたいな感じで思い出してもらえたら嬉しいです」と店長の橋本さん。まさに、いま使っているのが壊れたら「ステンレスピンチハンガー」 を買いに行くつもり。紹介文からも、お店で話をしてくれたときと同じくらいの思い入れが伝わってくる。

 

 

 

 


和綿の糸紡ぎ体験に行ってきました

 

MOTTAINAIクラフトあまたさんで開催された、愛知県の岡崎から『本気布(マジギレ)』というブランド名でオーガニックコットンの製品を作られている稲垣さんを招いての「むかし布の地産地消 〜オーガニックコットンとガラ紡体験〜」に行ってきました。

まずは和綿の種取りから。しっかりと綿に守られた種を採り出すのはなかなかに至難の業。採り出せたと思っても綿のもしゃもしゃがびっしりと種の周りにくっついている。

これを、骨董屋さんで見つけたという江戸期の綿切りロクロで挟んでくるりとまわすと気持ちいいようにぽろぽろ綿と種が分かれます。

種のほうは来年の5月に植えるのだそうで置いておいて、綿のほうを手でほぐすのですが、ほぐれているのか単にちぎれそうなのかわからない状態に。そこで使うのがタコ糸と棒で作った弓。

これで綿をはじくとあら不思議。どんどん綿がほぐれてフワフワになります。最後にフワフワと広がった綿を折り畳んでクルクル丸めて手のひらサイズにし、縒りながら引っ張って糸を繰り出して行きます。縒りの力で下のフワフワな綿がどんどん引っ張られて糸が出来ていくはずなのですが、凸凹になったり途中で切れたり、これも散々なことに。ガラ紡という道具を使って糸にしていきます。

ガラ紡は、臥雲辰致という明治初期の発明家が作った糸紡ぎ道具で筒状のいれものに綿を詰めて立て、その円筒を回転させながら綿を引き出していくというもの。何本もの糸巻が同時にできて飛躍的に早い!これ作った人、天才!と思ったら、第一回の内国勧業博覧会で1万4千点余りの中から見事金賞を受賞したものだそう。この道具を博覧会で見た多くの人が技術を持ち帰って自分たちで作り、東海地方でかなり盛んになり、トヨタの前身「豊田紡績」が生まれたそうです。高度成長期に伴い自動車に分野へ進出し、現在のような世界的企業となったトヨタのルーツは、綿から始まっていたのでした。

 

稲垣さんは、手で種とりから糸紡ぎの体験をしてもらうのは、これだけの手間と時間がかかるということを感じて欲しいから、とおっしゃいます。イギリスの綿花需要からアメリカの南部プランテーションが生まれ奴隷制度が始まり、大規模な綿畑では収穫を早めるために空から枯葉剤を散布しこれが後にベトナム戦争にも使われました。この大地を汚し、人を傷つける綿の大量生産へのアンチテーゼとしてオーガニックコットンに立ち返ろうという活動が生まれ、稲垣さんもそれまでやってきた繊維の仕事をすべてオーガニックコットンを広めるスタイルに切り替えたそうです。稲垣さんはお店は持たず、WEBshopと各地でのワークショップや出店で活動をされています。衣服は毎日着るものなのに食べ物ほど意識されていないような気がする、という言葉に、参加者の皆さんも大きく頷いていました。

 

 


たまごサンド考


たまごサンドといえば、ゆでたまごをみじん切りにしてマヨネーズで和える。あのタルタル状のものがあたりまえと思って生きてきたが、関西でたまごサンドを頼むと、かなりの確率で挟まれた卵が玉子焼き状態になっている。うっすら上品からし味だったり、がっつりベーコン入りのオムレツだったり。すこし戸惑うけれど、これが美味しい。意外なのは、ゆで卵の方があっさりしているかと思いきや、マヨネーズをたっぷりと混ぜたものが多く、焼いてないパンに塗られた溶けきらないバターの食感と重なって見た目よりもお腹にずしっと来ることが多い。対するオムレツ版は、ふわっと焼き上げたものにトマトソースが塗ってあったり、トーストで挟んだものに出会うことが多いので、さっくりジューシー。見た目よりあっさり食べられる。もちろん焼いてあるパン、ないパン、バターの量、卵のボリューム・・・絶妙のさじ加減に工夫されたものは全部それぞれに美味しいけれど、個人的には只今絶賛オムレツサンド派です。





 


桃豚の会

foodscape! さんで開催された桃豚の会に行ってきました。ご店主の料理開拓人・堀田裕介さんは料理人として日本各地の素晴らしい生産者さんたちとの出会う中で、料理を作り、食べてもらうだけでなく、生産者さんの想いを伝えたり、もっと多方面から食に関するアプローチをしていきたいと、今年6月大阪にこちらのお店をオープン。1階はベーカリー(すごくおいしい)とコーヒーショップ、2階はイベントスペース。大通りに面した建物の窓ガラスと白壁には素敵なドローイング、木のインテリアもモダンで落ち着いたデザインで、食べ物屋さんというよりギャラリーのような雰囲気。心地よい空間です。

今回のイベント、テーマは桃豚。収穫時に落ちてしまったり、形や色が悪くなってしまって出荷できない桃を、豚さんに食べてもらうという福岡県うきは市の豚農家・杉さんと桃農家 ・赤司さんがタッグを組んだ画期的な取り組みが紹介されました。foodscape!さんとうきは市の農家さんを繋いだ、井口和泉さんという女性もいらしていて、ふんわりした優しそうなのに、なんと自ら狩猟しジビエ料理をされる方だそう。ライターとしても活躍され『料理家ハンターガール』という本を出されてます。ウエルカムドリンクの、濃厚な黄桃のカクテルをいただきながら、お話を聞きました。

赤司さんは20種類ほどの桃を育てていて、なかでも加工品によく使われる黄桃は若いときは酸っぱくて硬く、かなり熟さないと生でいただくには適さないのだとか。でもいい感じに熟すのを待っていると当然傷んだり落ちたりする物も増える。大切に手をかけて育てた桃が、そうやって無駄になってしまうのはしのびない、と思っていたところ自然豊かな環境で豚を育てるところからこだわり、ハムやソーセージを作っているリバーワイルドハムファクトリー の杉さんと出会い、これらの桃を豚に食べてもらおうと思いついたそうです。杉さんは柿などほかの果物でも同じ試みをされていて、そうすると香りよく甘みのある豚肉になるそう。お話を伺いながら、桃の花が咲くころ、うきは市を訪ねてみたくなりました。

お話を聞き終わると、桃と豚を使った料理が次々に登場!桃とジャガイモのスープ、桃のコンフィチュールを乗せたパテドカンパーニュ、夏野菜とチャーシューのグリル、カツサンド、煮込み、ローストポーク・・・

 


 

どれもすべて美味しく美しく、瑞々しくて力強い味。生産者さんと料理人さんの丹精が感じられる素晴らしいメニューの数々をいただけて、お腹も心もいっぱいになりました。食べ物が口に入るまでの過程を知ることは食べることへの感謝や幸福感を増し、食への意識が一歩深くなる気がします。今後またどんな生産者さんたちに出会えるのか、楽しみな場所が増えました。

 


屋久島 田畑を巡る旅 その3

3日目は4人で白谷雲水峡へ。サンダルでも登れるような階段が延々と組まれた順路を歩き、島へ来て初めての観光客気分になる。途方もない大きさの岩がごろごろ転がる渓谷、岩の上には様々な種類の木が宿り、樹齢三千年の弥生杉は太古の時を感じさせた。「もう木だったのか岩だったのだったのか、、わからなくなってるのでは」と敦子さんが言い、笑ってしまったが本当にそんなかんじだった。ここで三千年も動かずじっとして、変わっていく人間の姿もずっと見てきた屋久杉と話が出来るなら、何を聞いてみようかと妄想したりした。

午後、本武さんと待ち合わせて、白川茶園さんに連れて行っていただいた。見晴らしのいい山間で、有機栽培の茶畑を営む白川満秀さんは、ここの気候と風土に合わせ栽培から発酵まですべてにこだわったお茶づくりをされている。

いかにしてお茶の美味しさが生まれるか、どんどん言葉が飛び出して、お茶が大好きなのが全身から伝わってくる。いかにも九州男児な熱血漢の白川さんが、にこにこと言葉少なにお茶を淹れ続けてくださる、チャーミングな奥様のことを「この人の感覚は確かなんだ」とちょっと可愛い顔になっておっしゃる。絶妙な二人三脚で歩んでこられた仲睦まじいお二人。次々に淹れていただいたお茶は、冷たく氷出しでいただく白葉茶の甘みも、自家製の材料を使ったたんかん、シナモンなどフレーバーティーも、ほのかで優しい。どれもすっきりと身を清めてくれるような上品な味わいだった。

 

その後、日本一のウミガメ産卵地で有名な永田というところまで少しドライブして、これでほぼ島を一周したことになった。屋久島は海底火山によってできた大きな岩だそう。岩の上の薄い土の層に苔や微生物の状態が繁殖しできた島なのだった。蜜柑の木も土があまりない岩山で美味しく育ち、岩をつたってくる水もそのミネラルでやわらかく美味しくなる。あの大きな屋久杉を支えているのも岩だった。その循環に人間は本来そんなに必要なくて、割り込んでおすそわけをもらいながら生きているのだから、その循環を助けこそすれ壊してどうする。という話なのだ。昔は皆が、そのことをよーくわかってたんだろうな、と思う。

 

この日の宿は一棟貸しの「おわんどの家」。チェックインの前にふらりと寄った一湊の海水浴場で、海の中からぐんぐん近づいてくる人がいると思ったら、本武さんの友人のあやさんだった。陽に焼けて手足がグーンと長くてハスキーな声のかっこいいお姉さん。上から下まで島の人みたいだったが、東京から2年前に越してきたという。ピアニストのあやさんは、ライブなどでちょこちょこ京都にもいたそうで、敦子さんと共通の友人までいた。旅には奇遇な出会いがつきものだけど、これには驚いた。家も近いしということで、夜あやさんが息子さんを連れやってきてくれて、とても楽しい晩御飯になった。また別れがたくなり、翌朝出発前にさよならを言いに寄る。再会を約束した。

 

お昼まで少し時間があったので、地元の人々御用達の尾の間温泉で非常に熱い湯にちょっと浸かってさっぱりした。外の足湯でぼんやりしていたら凍らせたポンカンジュースを持って本武さんが迎えに来てくれた。沁みる。この嬉しい気配りよ。おいしい食べ物が育つわけだ。最後にお昼を食べながら最終インタビューを終了し、地元の酒屋さんでお土産用の焼酎を試飲してフワフワしていたら、あっというまに出発ぎりぎりの時間になってしまった。空港の職員さんに促され猛ダッシュ。急にアタフタモードになる私たちを、落ち着いた雰囲気で見守りながら握手してくれた本武さんだった。ちゃんとしたお別れの言葉も言えぬまま、ゲートに入った。去り際はあっけなかったけれど、持ち帰ったものは大きくて、この旅が何かのはじまりになるように思えた。

 

最後に、旅のきっかけをくださった井崎敦子さんと本武秀一さん、ご一緒してくださった秋山ミヤビさん、砂本有紀子さん、それから毎日気持ちのいい晴れっぷりで迎えてくれた屋久島の大自然も含め、出会えたすべての皆様、本当にありがとうございました。

 

コラム「おいしい人々~スコップアンドホーのご縁つれづれ vol2. 屋久島へ行ってきました」本日アップです!ぜひ、お読みください。

 

敦子さん、本武さんを撮る。