雑誌「チルチンびと」89号掲載 栃木県 ㈲響屋
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147 山野草と美しい敷き石が印象的な小径を抜けて玄関扉を開けると、大きくて山並みの眺望が開けた板の間がある。隣には畳敷きの小上がりがあり、広々とした土間リビングへと続く。小上がりの正面には、奥さんがひと目ぼれしたという堂々たる風格の薪ストーブが置かれている。炎の暖かさに包まれた土間で、庭の草花や夜空を眺めながらの一杯。ここは、訪れる人につい長居をさせてしまう、居心地のよさに満ちている。「こうやって火を眺めていると、子どもの頃を思い出します。夕方庭先に家族みんなが集まって焚き火をするのが、1日が終わる合図だったよね」と薪ストーブの火を見つめながら語る奥さんのかたわらで「うん、うん」とうなずくご主人。「私と主人は『動』と『静』みたいな正反対の性格だけれど、育った環境や価値観がとても似ていたのね。それでもこの家を建てるまで、これほど趣味が同じだとは気づきませんでした」と奥さんが笑うと、無口なご主人も照れたような顔で静かに微笑む。 これまで毎日24時間気が抜けない自営業を続けてきたCさん夫婦。子育てもそろそろひと段落し、週末は夫婦でゆっくり過ごしたい。そんな生活を思い浮かべたとき、まずご主人が考えたのは、湯船につかりながら心ゆくまで栃木の名山、男体山と女峰山の大展望を楽しむこと。奥さんは、本格的なしつらえの茶室をつくって趣味の茶道を極めることだった。 1階西側の奥、この家で最も静かな位置に茶室がある。5年前、ご主人や息子さんたちとともに習い始め左/大屋根には薪ストーブの煙突が青空に映える。 下/「日本三大美肌の湯」といわれる喜連川(きつれがわ)温泉。知る人ぞ知る、すぐれた泉質の弱アルカリ性の温泉に、眺望のよい我が家で浸かる至福の時を手に入れた。

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