Vol.3器づくり@とある病院にて

学生の頃から、ちょこちょこと始めた「陶芸」。もう、10年近くになります。ひょんな事から、始まったとある病院の一室を借りての「陶芸教室」。参加者は、入院患者さんやそのご家族の方、外来の患者さん、一般の方々です。教室と言っても出席をとるわけでもなく、参加者の体調や気持ちを優先して、「都合のいい時、無理しない程度に来てくださいね。」というスタンスで開催しています。


最初の頃は、巷のカルチャースクールみたいに「教室らしくしなきゃ」と肩に力が入っていましたが、参加される方々が気負うことなく気軽に、無理なく時間を過ごすことが"病院"での特別教室だと感じ始めています。ここの教室は、開催期間に期限があるわけでもなく、年間を通してのカリキュラムがあるわけでもない。ましてや、展示会などの到達目標を掲げるわけでもない。メインは患者さんの体調、状況、気分、次第。梅雨の時期、猛暑の時期、体調不良で教室に来られない方もいますし、気分が滅入ってしまい作品作りに気持ちがシフトできない方もいらっしゃいます。参加者がまったく来ない時期もあり、少々不安になった事もあります。しかし、のんびり教室での「器づくり」を通しながら交わす会話がとても大好きです。


患者さん:「お茶のおかわりするのが面倒なので、大きい湯のみがほしくて…。」
 私:「ふふふ。いいですね~。でっかいの作りましょう。お茶のお供は何にしましょうか。和菓子がいいかな?それとも漬物かね~??」
 患者さん:「○○屋の△△ってお菓子美味しいですよね。」
 私:「そのお菓子、知ってます!私の好物なんです!濃い緑茶が合うんですよね~。」


数回参加されたこの患者さんとは、単純ではあるけれど、出来上がる作品を想像してお茶のお供を頭の中で用意して、本当に楽しい時間を過ごしました。翌週、その患者さんが、


患者さん:「りかさん!散歩がてら和菓子屋さんに行ってきました。」


といって、私の好物を差し出してくれました。お菓子をいただいた嬉しさよりも、その患者さんが何気ない会話を覚えていてくれた事のほうが嬉しかった・・・この話を病院の担当者にすると、とても驚いて「気分が落ち込み、外出が出来ないぐらいの方だったのよ!」とのこと。本当に嬉しかった・・・(涙)。ふだん食べていたはずの和菓子が、感動とともに鮮明に記憶に残り、今でもその味が忘れられません。


もうすぐ2年を迎えるこの「陶芸教室」。いつもの時間にいつもの場所で、いつもと変わらぬ格好で。


今日ものんびり、「あら、こんにちは~。気分はどうですか~♪」


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