其之参 なぜ中国茶の道を選んだのか? 其之参
なぜ中国茶の道を選んだのか?

「なんで中国茶なの?」この質問を何度聞かれたことでしょうか。


"これが茶道や紅茶だったら疑問に思われないのだろうか?"とちょっと思ったりもしますが、この質問をされるたびに素早く答えられない私がいるのです。"好きだから"これが一番の答えであるようですが、理由としてはちょっと弱い気もします。"中国茶に使われる茶器が好きだから"これはきっかけの一つで何人かの人にはそう話しました。でも、もっと自分の心を揺り動かした理由には、一人の美女と三人のお茶を愛してやまないおじさん達との出会いにあるように思うのです。


美女は友人の友達でした。「中国茶も教えているのよ」この一言が衝撃的でした。中国茶が習える。そもそも習うなんて思ってもいなかったのです。中華料理屋さんに行けば飲めるもの、その程度の認識でした。ぜひとも習いたい!! そう思い立ったものの彼女の教えているお教室は満員。次いつ習えるかも分からないものでした。習えると知った私の衝動は激しく、近所で習える教室がないかと探しました。数少ない中国茶の教室の中で、車ですぐ行けるお教室を探し当て、早速申し込みました。そこで出会ったのが一人目のおじさんでした。


 「私はね中国茶に惚れ込んでしまってね、30年務めた会社を辞めてこのお店を開いたのですよ」湯気の向こうに垣間みるやさしい笑顔が印象的な方でした。お茶の作り方、水の大事さ、始めの一歩はすべてこの方から学びました。このお教室に通っていたのは暑い夏、むせるような暑さの中を教室に来た私にスッとコップ1杯の水を差し出して「この1杯さえ飲めば、どんなに暑くても温かいお茶を美味しく飲むことができるでしょ」この言葉は、中国茶を人に伝える上で大切な教えの一つとなりました。


 二人目のおじさんには横浜の中華街で出会いました。中華街といってもお店の人ではなく、その時に開催していた「中国茶フェア」なるものでした。フェアというわりに閑散としていて客は私と数人でした。「こちらの先生が岩茶を淹れてくださいますよ」そう言われ案内されたのは、メガネをかけた痩せたおじさんの前でした。香りが魅惑的なお茶を淹れてくれました。その美味しいこと! 次のお茶が入る頃、お客は私一人に。物静かそうに見えたおじさんは、ぽつりぽつりと話し始め次々に美味しいお茶を淹れてくださいます。話を聞いて行くうちにどうやらこの方はお茶を作る人らしく「福建省にはね、自分専用の工房も作っていただいたのですよ」なんだかすごいことを話しているなぁと頭で思ってはいても、私は目の前のお茶の美味しさに興奮していて、そんなことは些細なことのようにしか感じませんでした。後にこのおじさんが「中国福建省名誉茶師」であり、あの"サントリーの烏龍茶"を生み出した人だと知り驚愕することとなります。


 この出会いの後、三人目のおじさん(といっても歳はそんなに変わらないのですが)にたどりつきます。一見すると無愛想で不機嫌に見えるこのおじさん、中国茶の知識については超一流です。この出会いから私の中国茶の資格を取得するための3年間がスタートしたのです。このおじさんとのお話はまた次回、お話することにいたしましょう。