住宅雑誌「チルチンびと」74号 -火は我が家のごちそう-
7/7

新穀を祝う宵宮、 新たな神を迎える 拝み膳とは、専用の膳または三 方(供物を載せる台)に半紙を敷 き、その上に餅、シダ、柑子(あ るいはミカン)、栗、トコロ(山 芋の一種)、串柿、ユズリハ、昆 布、きな粉、貯金通帳、お金、暦 などのお目出度い供物を配した もの。東またはその年の恵方に 向いて両手で膳を掲げて拝礼す る。祝い膳、長屋膳と呼ぶ家も ある(膳に餅を5枚並べる家で は「五枚膳」と呼ぶケースも)。 家によって、膳の数、膳の上の 供物の種類や並べ方、拝礼の仕 方が、かなり異なる。写真は、 山添村松尾の某家の拝み膳。 辻にクラタテをする家もある。ク ラの意味は、神が降臨する依り代 としての「坐」だ。これとほぼ同 じものを、山の神の日である1月 7日に、山の聖域に赴いて設える。 クラタテは、中央に立てた篠竹の 先端に、火の象徴である柑こ う 子じ やミ カンを突き刺すのが特徴である。 火とミカンは深い関係があり、京 都各地で祝われるお火焚き祭や、 鍛冶職人による火祭りである鞴 ふいご 祭ま つり では、ミカンを蒔いて祝う習わ しがある。  そして山に入って、家の男性の 数だけ木を伐り持ち帰る「伐り初 め」を行う家も。長さ2メートル ほどの木を庭から屋根に立てかけ、 一本ずつに藁わ ら 苞づ と をくくりつけ、供 物を捧げる。藁苞はホーデンやフ グリとも呼ばれ、石や餅、砂など、 苞の中身は家ごとにまちまちだ。 この山の木は、オンボサン、ホウ サン、正月サン迎えなどと呼ばれ るが、同様の風習が、山の神信仰 が残る各地でみられる(若木伐り、 若木迎え)。長野県では小正月の 火祭りである道祖神祭で、オンベ やオンバシラと呼ばれる道祖神柱 を立てるところがあり、かつては その木に男性の象徴である張型を 取り付けていた。大和高原では、 祀られた後のオンボサンは、小正 月に薪にして、その年か来年の正 月行事の火に焚くことが多い。 山添村助命の八王子神社、秋祭 りの宵宮。檜の枝などで組んだ 檜葉に火を灯し、神を迎える(檜 葉焚き)。檜の葉はよく燃える ので、四方八方にパチパチと火 の粉が飛び散る。まるで壮大な 仕掛け花火のようだ。 17

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る