住宅雑誌「チルチンびと」74号 -火は我が家のごちそう-
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旧年と 新年をつなぐ 神迎えの火  年迎えの本番が始まるのは、大 晦日の夕方だ。古来、一日の終わ りは日没とされたため、一年の終 わりは大晦日の日暮れであった。 薄暗がりのなか、大和高原と、そ の東の三重県伊賀地方では、新年 の迎え火行事「福丸迎え」がよく 行われてきた。家ごと、または数 軒ごとに、広場や辻、田んぼ、境 内などの決まった場所で、餅やご 飯などのお供えをして、松明や藁、 竹などに火を灯す。火が最高潮に なった頃、「福丸、こっこー(福の 神よ、来い)」などと連呼して、提 灯や松明に移して家に福火を持ち 帰る行事だ。つまり、正月に外か ら神を迎えるのだ。持ち帰った火 は、神棚や仏壇など、家内の数々 の灯明に灯し、お雑煮をつくるた めの神聖な火として、竈(現在は コンロ)にも点ける。お雑煮の水 は、山水や井戸水の若水を使う。  出来上がった雑煮を神仏に供え た後、家族一同で座敷に並び、「拝 み膳」の拝礼を、恭しく執り行う。 膳を頭に載せたり、額に付けたり する家もあることから、依り代で ある膳を通して、自らに神霊を降 ろす行為なのだろう。そして、雑 煮などの祝い膳をいただく。新年 の福火と若水によって、神への供 物(餅)を煮た雑煮を神し ん 人じ ん 共 きょう 食 しょく す ることで、自らの内に新たな力を しっかりととどめるのだ。お腹が 満たされたところで、一旦、神迎 えの完了。朝、氏神に詣でたり、 稲を積んだり(寝る)で、ゆるり と元旦を過ごす。  徹夜で年神を迎える正月は、 「寝る」という言葉を避け、「稲を 積む」と表現する。お雑煮で心身 が満たされた後の、贅沢な稲積み だ。ちなみに沖縄では、稲積みは、 籾種を貯するために積む収穫後の 稲を指す。また、神事として舞わ れる式三番の翁舞に登場する稲積 翁は、稲を発芽させる種おろしの 行事に関係する。つまり、新たな 火と水で和した雑煮の後の稲積み は、自らが生命の種となることの 象徴なのかもしれない。お盆の迎 え火になぞらえられることが多い 年迎え行事だが、自らの内に直接、 福火のスピリットを迎え取り込も うとする傾向が、お盆よりも強い。 そこに垣間見えるのは、祖霊を遥 かに遡った、太古の山の神だ。  元旦、男性陣が山の神のエネル ギーをさらに満たすべく、庭先や 右/地域や家ごとによって実に 多様な福丸。砥取地区では、10 メートルの火柱が立つ壮大なス ケール。7年前から、継承と地 域活性化をめざし、燈火会とし て復活。今年の大晦日は筆者も 出演。詳細は226 頁にて。 (写真提供/砥取 福丸・燈火 会保存会) 大晦日、 火柱の立つ福丸迎え  

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