住宅雑誌「チルチンびと」74号 -火は我が家のごちそう-
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 煌々と舞い踊る炎に、散り放た れる火の粉。大和高原に暮らすよ うになってからというもの、息を 飲むような火柱に、私は幾度とな く魅了されてきた。プリミティヴ なエネルギーに晒されながら、無 心となった意識が、時空を超えて 太古の時代へと還っていく。そん な原初の火が立ち現れるのは、た いがい一年の節目だ。新年をめぐ る一連の年迎え行事に、火は、世 界の始まりのエネルギーをもたら してくれる。新しい生命への萌芽 を促しながら。  その神秘の火は、いつも山とか かわっている。山の神を招き降ろ した木に、火を放つことで、火は 山の霊威そのものとなる。大和高 原では、年迎え行事の基層に、山の 神の神事がしっかりと根付いている のだ。正月の一般的なイメージであ る、初々しさや清らかさを超えて、 火はダイナミックな胎動を生み出し てくれる。  本来、大和高原の正月行事は、火 に始まり、火に終わると言っても過 言ではない。ただ、年迎えの詳細は、 家ごとによって非常に異なる。古老 たちにお話をうかがっていると、 代々隣家同士で暮らし、親戚同様に 交流する仲であっても、祭祀の違い にお互い驚き合ったりすることが少 なくない。それほどに山の神には秘 儀的要素が濃厚なのかもしれない。 しかし、山の神の普遍的な要素は、多 くの家にしっかりと継承されている。天理市山田町で毎年6月16日に行われる 「田の虫送り」。太鼓の先導で、松明を持っ て田を練り歩く。水田に映る炎が幻想的だ。 15  

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