雑誌「チルチンびと」67号 -古びの美が宿る家-
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緑濃い熊野の地に建つ、やさしい 雰囲気の洋館。久保さんは荒れ放題 だった建物を修復し、住まいとする。 もともと曽祖父が大正時代に建てた 病院で、やはり医師の祖父が継いで 運営していたが、その死後は放置さ れ、30年の歳月が過ぎた。今日、な ぜ改修を思い立ったのだろうか。 「よくわからないんですよ(笑)。こ こは母方の実家で、小学生の頃は大 好きな祖母に会いたくて夏休みに必 ず来ていました。でも、中学に入る と足が遠のいて。ひどい状態だと聞 いても、何かしようとは思いません でした」   ただ、インテリアに興味はあった。 東京のマンションを好みのままにリ フォームしたり、家具なども新品よ り職人がきちっとつくった古い時代 のものに惹かれた。西洋古道具店を営んでいた塩見和彦さんを知って、 伝統的な家具修復法を学んだことが、 熊野の家の再生に自分を向かわせた のかもしれない―そう振り返る。 「この家を直したらいいじゃない」   偶然、かつての病院の写真を見た 塩見さんのなにげない一言が、久保 さんの心の深層に眠る思いを目覚め させた。こうして修復が始まる

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