雑誌「チルチンびと」88号掲載 小笠原からの手紙
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131高さは数十センチの木本植物である。ユズリハワダンはやや湿潤な林内を好み、高さは1メートルを超える木本植物である。コヘラナレンは乾燥した荒れ地にたくましく生きる草本である。 小笠原のような海洋島では、生育する場所(ニッチ)に空きが多いので、同じ種がそれぞれの生育地に適応しながら種が分化していくことが多い。この現象を適応放散と呼んでいる。 腐生植物とは、落ち葉などが分解されてできた有機物を利用して生活する植物。光合成を行わないので、葉は退化し緑の部分がない。 シマウツボ(島靫)は2月から3月にかけ、林床に集まって生える。全体が鮮やかな黄色で目に付きやすい。大きさは10センチくらいで、2週間ほどで枯れて跡形もなくなる。同一場所には3~4年現れるが、その後たものが多い。これは海洋島でよく見られる現象だ。オオハマギキョウはこのような種の分化をしないで、元の種とは別もののように大型化した例である。 盛夏の頃には、林内でアサヒエビネ(旭海老根)が黄色の花をたくさん付けて咲き乱れる。根茎が海老のような形をしているので海老根と呼ばれる。アサヒエビネは絶滅危惧種になっているが、保全が行き届き生育状況はよい。 夏の日照りの強いガレ場にひっそりと咲くのはコヘラナレンである。この植物もノヤギの食害で20株ほどしかなく、絶滅寸前の状況である。コヘラナレンはアゼトウナ属の植物で、200万年以上前の古い時代に本州からアゼトウナ属の一種が渡ってきて、コヘラナレン、ヘラナレン、ユズリハワダンの3種に分化したといわれている。 ヘラナレンは海岸近くから明るい山地にかけて生えている。は消えてしまう。 イモラン(芋蘭)は6、7月頃に林床や山道沿いに現れる。全体が茶褐色で小さいうちは見落としてしまうが、生長すると数十センチになる。根が芋のような塊状根になっているので、イモランと呼んでいるのだが、花は比較的大きく紫色で上品な姿の蘭である。 父島のすぐ南にある南島は、沈降、隆起を繰り返した石灰岩の島で、半ば海に沈んだ沈水カルスト地形は父島の観光スポットになっている。この島は、小笠原がアメリカからの返還早々にノヤギを駆除したので植生の回復が早く、小笠原の固有種がのびのびと育っている。 ノヤギの駆除が遅れた島では、ノヤギの行けない崖などに細々と生えているオガサワラアザミ(小笠原薊)が、ここ南島では見事な群落になっている。花は淡い紅で、高さは1メートルくらいになる。 オオハマボッス(大浜払子)は浜辺近くに生え、葉は厚く潮風に強い。花穂が払子を思わせる。白花をたくさん付け、群生しているとお花畑のようである。南島以外にもノヤギのいない小さな離島に多い。 ツルワダンは細い根茎が蔓状に地表面近くを這う。葉は粉白色で細長く、弱々しく見えるが潮風に強く、南島をはじめ離島のガレ場などに生えている。黄色い花が点々と咲く可憐な植物である。【 南島の植物 】【 腐生植物 】南島の花—上/崖地に群落をつくっている5月の花、オガサワラアザミ。 下2点右から /浜辺に咲く白い花、オオハマボッス。 /浜辺にひっそりと咲くツルワダン。腐生植物—上/落ち葉の森の淑女と称されるイモラン。 下/こちらは落ち葉のなかの黄金、シマウツボ。

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