雑誌「チルチンびと」88号掲載 小笠原からの手紙
1/2

130世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。文、写真・安井隆弥父島の春から夏の植物vol.22やすい・たかや/1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年~91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』が小社から発売中。PROFILE 小笠原の草花は、静かな林床にひっそりと咲いている。森を歩いていると、ひょっこりと小さな花を見つけてうれしくなる。 海岸近くの草原にシマカコソウ(島夏枯草)が小さな白花を付け始めると、小笠原の春の訪れだ。続いてシマツレサギソウ(島連鷺草)が林縁や薄日のもれる疎林の林床に可憐な白花を付けた姿を現す。荒れた岩場などにはムニンタイトゴメ(無人大唐米)が、いくつにも分岐した株に黄色い小花をたくさん付けてへばりついている。花が終わり実を結ぶと、次の冬の終わり頃に再び芽を出すまで、地上部は枯れて姿を消す。 ここにあげた植物は、ノヤギ(野生化し繁殖してしまったヤギ)に食べられ、細々と生き残っていたが、数年前からノヤギの駆除が進み、回復の兆しが見えてきた。 初夏の訪れとともに、海辺に近い草原に1~2メートルにもなるキキョウの一種、オオハマギキョウ(大浜桔梗)がたくさんの白花を付ける。海洋島*である小笠原には、南のポリネシアやアジア大陸、日本列島などから渡り鳥や風などによって運ばれてたどりつき、細々と生育し、また繁茂しながら200~300万年も隔離される間に、島の中でいくつかの種に分かれ【 春 】【 初夏~夏 】*海洋島―海底火山により大海原に出現した島で、大陸や他の島嶼と一度も地続きになったことがない島のこと。初夏から夏の花—上2点/オオハマギキョウは海辺にたくましく育つ。 下3点右から /代表的な夏の花、アサヒエビネ。/長い年月をかけて分化したコヘラナレン(右)とヘラナレン(左)。春に咲く花—右/ムニンタイトゴメは肉厚の葉が大唐米に似る。 左上/シマカコソウは小笠原では夏も枯れない。 左下/シマツレサギソウは静謐な森の花。

元のページ  ../index.html#1

このブックを見る