雑誌「チルチンびと」84号掲載 小笠原からの手紙
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 6月中旬、梅雨前線が北上して本州が梅雨入りすると、小笠原の長い夏が始まる。日差しが強くなり、この頃から小笠原の海は鮮やかな青い色に変わる。小笠原諸島はBonin islandsと呼ばれた時代があることから、この独特の青い海を「ボニン・ブルー」と呼ぶ。ボニン・ブルーに魅了され、繰り返し島を訪れる人は多い。今回はこの青い海の底に生育する造礁サンゴを紹介したい。 造礁サンゴは刺胞動物というクラゲやイソギンチャクの仲間に含まれる。石灰質の骨格をつくり、光合成を行う小さな藻類を体内に保有するのが造礁サンゴの特徴だ。最近小笠原で密漁が話題になった宝石サンゴは、刺胞動物ではあるが造礁サンゴには含まれない。 小笠原諸島のサンゴ礁地形はエプロン礁といい、造礁サンゴは主に海中斜面の限られた範囲に生育する。防波堤のように隆起して島を取り囲む琉球列島のサンゴ礁とは異なり、サンゴ礁地形としては未発達な部類だ。沖縄と小笠原を訪れた人は、沖縄の海に対してはエメラルドグリーン、小笠原の海に対しては青の印象を抱くだろう。沖縄はサンゴ礁でできた礁池と呼ばれる浅瀬が島を取り囲むので、海岸から見える海の色が明るく淡い。しかし小笠原では礁池は形成されず、海岸から沖に向かうとすぐに深場へと落ち込むので、海の色は濃く見える。未発達なサンゴ礁地形もボニン・ブルーの条件だ。 小笠原で特に多く見られる造礁サンゴを紹介したい。まずはサボテンミドリイシ。色は緑褐色で、ゴツゴツとした太い腕を広げたような形をしている。兄島瀨戸に面したキャベツビーチはサボテンミドリイシの大きな群落が広がり、スノーケリングで観察することができる。アザ世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。文、写真・佐々木哲朗造礁サンゴサンゴ礁地形代表的な造礁サンゴボニン・ブルーの海ささき・てつろう/1976年生まれ。東京都調布市育ち。小笠原自然文化研究所副理事長。大学生時代にアオウミガメの調査ボランティアに参加するため、初めて小笠原を訪れる。青い海と不思議な自然に魅せられて後に移住。PROFILE小笠原のサンゴ礁vol.18小笠原の鮮やかな青い海。ボニン・ブルーと呼ぶ。兄島瀨戸キャベツビーチ。サボテンミドリイシが広がる。父島巽中海岸。アザミサンゴの一種が優占し、まるで山脈のようだ。細い触手をたなびかせる。

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