雑誌「チルチンびと」82号掲載 小笠原からの手紙
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 外来植物が新しい生育地(小笠原)に定着すると、在来の植物との競争や交雑により在来の植物の生育を脅かし、島の固有種を絶滅の危機に追いやったり、島の生物多様性を破壊したりする。このような帰化種は、特に侵略的外来種と呼んでいる。今回は草本類を取り上げる。 東京では鉢植えして園芸植物として売られている。花はピンク、黄、赤が混ざった集合花で可愛らしい植物である。小笠原では著しく成長し高さは1・5メートルにもなり、茎も木質化し、灌木になる。開けた裸地や草原に侵入し大きな群落をつくり、他の植物を寄せつけない。 ランタナは鳥が果実を食べ、点在する裸地に種子を散布して分布を広げ、さらに小笠原の固有種などを駆逐する。その勢力範囲は侮れない状況になっている。駆除もギンネムに劣らず厄介な植物で侵略性も強い。 帰化植物の草本はイネ科が圧倒的に多く、20種以上はある。この草が父島に入ったのは比較的新しく、欧米系の古老の話では、米軍占領中にフィリピンから移入した牛に付いていたという。イガにはたくさんの刺があり、刺にはかえし(逆刺)があって、人や動物が接触すると、ズボンや靴などに取り付き、なかなか外れない。1980年代に、小笠原観光のメッカである南島に定着し、訪れる人びとを悩ませた。また、南島に営巣する海鳥の羽毛に付着して他の島々に伝播している。世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。文、写真・安井隆弥ランタナ(七変化)園芸植物が小笠原では侵略的外来種にクリノイガ海鳥が島々に伝播しているやすい・たかや/1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年〜91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。著書に同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。PROFILE小笠原の帰化植物 後編vol.16ランタナ中南米原産のクマツヅラ科の常緑小灌木。花は何色にもなるので七変化(しちへんげ)ともいう。路傍にも空地にも容赦なく入ってくる。クリノイガ熱帯アメリカ原産のイネ科の1年草。栗の毬の意。種がくっついたら離れない。島の人は「とっつき」と言う。根を下ろすと大きな株になる。176

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