雑誌「チルチンびと」76号掲載 小笠原からの手紙
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 小笠原が世界自然遺産になってから、 やるべきことは山ほどある。たとえば、 ノヤギの駆除、そしてネズミの駆除。 この二つだけで植生は大きく変わる。 植物が種子を実らせてもネズミが食べ てしまう。わずかに食べ残した種子か らの芽生えはヤギが食べる。これでは 次の世代への更新ができず、現存のも のが滅びるのを待つだけである。ノヤ ギとネズミを完全に駆除した島は息を 吹き返し、幼木がたくさん出始めてい る。私の所属する「NPO小笠原野生 生物研究会」(以下、野生研)はこうし たボランティア活動をよくやっている 団体で、手前味噌ではあるが、その一 端を紹介したい。  1996年、外来植物に占拠されて いる海岸林を再生しようと、有志が集 まり、父島南西部の通称「焼場海岸」に 海岸林本来の構成木であるモモタマナ の種を蒔いたのが、この会のボランテ ィア活動の出発点であった。その後、 植林、外来植物の駆除、オガサワラア ブラコウモリの探索、ノヤギの駆除、 稀産植物の育苗、離島の植物相の調査、 炭焼き、海岸清掃など、多様な活動を 行ってきた。  小笠原の聟島列島と父島列島の各島 は、米軍占領中に放置されたノヤギが 繁殖して島の植物を食べ荒らし、島に よっては植被が.がされ、むき出しに なった赤土が海に流れ込んで、海の生 物にも悪影響が出ていた。  野生研では、聟島列島の嫁島のノヤ ギを駆除し、島の緑を回復しようとい うことで、民間団体から助成金をもら い、2000年に駆除活動に入った。 追い込みの柵の設置などは職人に頼み、 2泊3日、 20 余人の参加者はノヤギの 追い込みを手伝った。草原で星を仰ぎ ながら毛布にくるまって夜を明かすと いう3日間を、自然を楽しみながら過 ごした。その後3年間、いろいろな種 を蒔き、現在では4~5メートルの 木々が300 本ほど育っている。こ の荒れ果てた島を何とかして救いたい という、参加した人びとの島への愛情 と熱意があったからこそできたと思う。  小笠原は大洋に浮かぶ島だけあって、 漂流物がたくさん流れ着く。ハングル 文字、中国文字、アルファベットのも のなど、日本以外のものも多く、台風 の後は、船に積みきれないほどの量と なる。また、海に浮かんでいるビニー ル片やプラスチック片は、ウミガメが 海藻と間違えて食べる。これらは消化 できず、腹にたまったビニール類で衰 弱死してしまう。海鳥にも同様な被害 が出ている。ゴミを拾うときも、大き なゴミだけでなく、小さなプラスチッ クも拾うよう心掛けなければならない。  海岸清掃のボランティア活動は、海 岸をきれいにするばかりではなく、海 の動物たちのためでもある。  戦前の構造物を撤去した後や、外来 植物を駆除した荒地に植林をする。こ のボランティア活動には、「チビッコ クラブ」の子どもたちが親とともに参 加する。子どもたちにはまだ植林の目 的がわからないかもしれないが、大き くなってその意味を理解するであろう し、 10 年、 20 年後、大きく育った木が 小さい時にみんなで植えた木であるこ とは、感慨もひとしお、自然への親し みが湧くことだろう。  ボランティアもいろいろあり、自分 の参加した行動を通して、それぞれに 自然への親しみを身につけるようだ。  駆除した木を捨てるのはもったいな いので、たまに炭焼きをする。この時 も子どもたちが参加し、炭材の詰め込 みや炭の窯出しを手伝う。子どもたち は真っ黒になりながら嬉々として炭を 取り出し、1箱ずつお土産に持ち帰る。 このような楽しい一日が島の子どもの 生活として広がるよう心掛けている。  父島からほど近い南島に、1970 年後半頃に外来種のクリノイガが入り 始めた。これは何とかしなければなら ないと、2000年に民間の助成金を もらい、クリノイガの除草を始めた。  その後、小笠原観光の目玉であるこ の島が外来種の巣窟になるのを阻止す るため、東京都が事業者に発注して駆 除を行うことになった。2012年度 は野生研がこの仕事を受注し、毎回4 ~5名が参加して、とても良い成果を おさめた。東京都の委託であるので参 加者は日当をもらうが、南島から外来 種を駆除して本来の植物が茂る美しい 島にしたいという気持ちが、参加者に みなぎっている。  そもそもボランティア( Volunteer) とは志願兵や有志者の意味で、参加者 が行動の意義をわきまえ賛同し、本人 が自主的に参加することである。その 行為が無償であるか有償であるかは本 来の要件ではない。世間ではボランテ ィアの自主性はあまり意識されず、無 償の奉仕活動と考える人もいるが、そ うではない。南島で活躍している人た ちは、立派なボランティアの実践者で ある。 嫁島のノヤギ駆除と植生回復 海岸清掃 植林 外来種の駆除 炭焼き

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