雑誌「チルチンびと」69号掲載 小笠原からの手紙
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き出た長崎を見下ろす。周辺の海は透き通り、時にウミガメやエイ(マンタ) が泳いでいるのを見ることができる。
中央山と東平
父島のほぼ中央に、父島最高峰の中央山(230メートル)がある。島の一周道路に面して入り口があり、頂上まで300メートルの道が整備されている。展望台からは、兄島、弟島をはじめ周辺の離島、はるか南には母島も見渡せる。周囲の樹林を見下ろすと、オガサワラビロウや木生シダが混生し、本州の林とは趣が異なる。5月頃はムニンヒメツバキの白花で埋まる。
中央山の東下に東平が広がる。この地域は小笠原の固有植物が多く、ムニンノボタン、チチジマクロキ、ノヤシ、メヘゴ、オオミトベラなどの希産種も近くで見ることができる。その他の固有種も豊富な典型的な父島の森で、一度は覗いてみたい。天然記念物のアカガシラカラスバトの生息地でもあり、運が良ければお目にかかれることもある。この鳥は地上を歩き回るので、野猫に狙われやすく、トラップを仕掛けて野猫を捕獲している。また、この地域の植物を野ヤギの食害から守るため、広範囲に野ヤギ防除柵を設けている。
東平は生態系保護地域なので、遊歩道とは違い、ガイドの案内での入林が義務づけられている。入林の際は、衣服や荷物に付着している種子の除去や靴底の泥を落とす設備が整っている。
ツツジ山・千尋コース
小港との駐車場の手前を左に入り少し進むと、右手に登山口の小さな看板がある。山道を登ると常世の滝があり、父島の水がめである時雨ダムと周りの山々が見渡せる。ワラビの群生地を過ぎ、切り通しの手前を左に曲がると前方に大きな岩峰があり、ムニンツツジの群生地となる。3月末から5月頃に大きな白花を付けるが、ぽつぽつと10 月頃まで少数の花が咲いている。20 数年前には1本だけになったものを、小石川植物園(当時)の下園氏により復元された。このあたり一帯をツツジ山と呼んでいる。
前述の切り通しを抜けて行くと、巽の西海岸への道に出る。右に入る細い道は旧軍道で、そこここに旧軍の施設跡がある。インドゴムノキの大木やクスノキなどは大正・昭和初期に有用樹として植栽されたものである。やや湿潤で苔やシダも多い樹林を抜けると開けた高台に出る。巽崎方面から高山のほうまで見下ろせ、海を隔てて南島が浮かぶ絶景である。
この台地を下って行くと平坦な樹林となる。シマホルトノキやオガサワラモクレイシ、林床にはムニンナキリスゲの間にアサヒエビネなどを見ることができる。さらに進むと200メートルの絶壁の連千尋に出る。ここでお弁当を開くのは気分爽快である。このコースは約2 キロメートルの距離で上り下りもあるが、絶景を楽しめるので人気がある。東平と同様、保護地域なので、ガイドの同行が必要である。
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6月に小笠原が世界自然遺産に登録されるや、毎航海700名前後の人びとが来島するようになった。チャーター便の大型客船も入港する。今までは海への観光が多かったが、山へもたくさんの人が入るようになった。ルールを守り、末永くこの自然を後の世代につなげていきたい。
やすい・たかや 1931 年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78 年~ 91 年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留
まり小笠原野生生物研究会を設立。2000 年にNPO 法人化、理事長となる。著書に同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。
兄島
宮之浜
釣浜
長崎
二見湾
二見港
扇浦
小港
南島
N
巽崎
巽湾
中央山東平
ツツジ山
千尋岩
時雨ダム
高山
旭山旭平展望台
長崎展望台
釣浜展望台
三日月山
三日月山展望台
(ウェザーステーション)
兄島瀬戸を挟んで兄島を見る。
野ヤギ除けの柵が樹林を守る。
ツツジ山への登り口。
断崖絶壁が連なる千尋岩。
0 2km
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