雑誌「チルチンびと」68号掲載 小笠原からの手紙
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と異なり、幹は太く亜高木になる。先の3種は一つの果柄に1果であるが、シロトベラは房状に数個の果実をつける。   このように、約300万年の間に小笠原に最初に棲み着いたトベラが、乾いたところや湿気の高いところなどさまざまな環境に鳥などにより散布されて、その環境に適した植物(トベラ)に進化したのである。 小笠原の動植物の現在 小笠原は固有種が多いと評価されたが、その現状を見ると、100余の固有種のうち、絶滅危惧種に指定されているものがおよそ60種もある。30年前には1株だけになったムニンツツジとムニンノボタンは、当時東大植物園に在職していた下園氏によって復元した。現在でも10株に満たないものもある。関係機関も相当力を入れて希産種の保全を図っている。 外来種について、ここ10年間にノヤギの駆除は、聟島列島全域、父島列島の兄島、弟島、西島を完了、残るは父島だけである。その他ノネズミの駆除、ノネコの駆除などが実施されている。外来植物ではアカギ、モクマオウ、リュウキュウマツほかの駆除が実施されている。 これからの小笠原 小笠原が自然遺産になったことで、マスコミが華やかに盛り上げている。来島者も多くなると予想される。自然保護の面で、それらにどう対処するのか。林野庁はすでに生態系保護地区を設定し、入林できる場所を指定する等の措置をとっている。 自然ガイドの人たちも注意深く、自然を壊さないような案内を心掛けている。心ない人による植物の採取や、ルートをはずれて林内に入ることがないようにしたい。要は、ルールを守るということが肝要である。 *1 固有種―特定の地域だけに分布する生物種をいう。島は海により隔離されているので固有種が多い。 *2維管束植物―道管(または仮道管)と師管をもつ植物をいう。シダ植物と種子植物がこれにあたる。道管は水分が、師管は体内の物質が移動する管状の組織。外から見える維管束は葉の葉脈である。 Information 母島に行こう  母島は父島の南50kmにあり、森も繁り固有種も多い。人口約400人で静かな島である。小笠原の雰囲気がとても好きなリピーターは母島を好む。村の中で天然記念物の鳥メグロが見られる。父島からは「母島丸」(約500t)で2時間10分。秋の終わりから暮れにかけザトウクジラが小笠原に子育てに来る。この航路はクジラを見られる機会が比較的多いので、母島丸のことを「ホエール・ライナー」と呼んだりする。母島は宿が少ない。事前に宿を予約しておかないと満杯で泊まれず、父島止まりとなるので注意が必要だ。 やすい・たかや 1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年~91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。著書に同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。

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