雑誌「チルチンびと」89号掲載 「京都大原の山里に暮らし始めて」
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7りしたタマネギを濃いキツネ色になるまで炒める。そこに上述の粉にしたスパイスを混ぜ、角切りのイノシシ肉を一緒に炒めたあと、トマト、水、ベイリーフを加え煮込む。たまたま、冷蔵庫に大根と人参があったからそれも加えた。1時間ほど煮るとイノシシ肉が柔らかくなり、野菜も煮崩れしてとろみが出てきた。インドのカレーは日本のカレーのように小麦粉で あのイノシシ肉はまだあるだろうか? 千松さんに電話してみると、明日の夕方取りに来るように言われた。 翌日、彼の作業場へ行くと、ブンブンと賑やかなミツバチがいる四つの養蜂箱を見せてくれた。おまけに僕の大好きな採れたてハチミツもいただいた。彼の周りに集まる人々は、身近なその辺の自然から食料やら生活の役に立ちそう イノシシカレーの基本スパイスはコリアンダー、クミン、ターメリック、チリ、ブラックペパーの5種類。よく、日本の市販カレー粉とかカレールゥには20〜30種類ものスパイスが秘伝の調合とか書かれているけど、あれがホントなのか僕は信じられない。たくさん混ぜたら、なんでも美味しくなるというものではない。 刻んだニンニクとショウガを油で炒め、みじん切つくったルゥでとろみを出すことはしない。塩で味を調え、香り付けにカルダモン、シナモン、クローブ、ブラックペパーでつくったガラムマサラを最後に加えて出来上がりだ。 イノシシ肉は豚肉のような臭みがなく、コクがあるがクセがない。美味しく食べ終わる頃、野生パワーを吸収した僕は、イノシシのように鼻息が荒くなっていた。 なものをタダで調達してくる、彼のマジックを楽しんでいるのかもしれない。 さて、イノシシカレーである。僕のつくるカレーはインド仕込みだ。インドを8カ月間ぶらついて、現地で覚えたもの。宣伝みたいで申し訳ないが、インドから帰国してインドカレー屋「DiDi」という店を32年前に京都で開いた。お店は今も健在である。*上/右上よりチリ、クミン、コリアンダー、ブラックペパー、ターメリック。 下/カルダモン、シナモン、クローブ、ブラックペパーでガラムマサラをつくる。新鮮な野菜にハーブのナスタチウムとチャビルの花を飾った。かじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。ホップとフジが気持ちいい木陰を作る我が家のテラスで、野菜と猪肉がたっぷり入ったインドカレーをいただくベニシアと孫の浄。

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