雑誌「チルチンびと」88号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
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7た。冷蔵庫で肉を5日間ほど寝かせて、塩とスパイスに漬けた後、塩抜きして燻製にかかる。ベーコンはすぐにでき上がる料理ではなく1週間ほど必要だ。その時間をつくり出すことも調理の要素である。 塩漬けして1週間が過ぎたのに、急な仕事と奮闘していた。冷蔵庫の中から「早く燻製にしてくれ〜」とバラ肉たちの声が聞こえる。塩漬けして8日目、いよいよ今日は絶対やるぞと決めたその日は雨になった。まず約3時間、流水で「塩抜き」する。それから、爽やかな風に6時間当てて乾かす「風乾」作業なのに、雨とは悲しい。仕方がないので少しでも乾くように、吊った肉に扇風機の風を6時間当てた。スモーカーに肉をセットし、燻煙材を入れずに、まず1時間ほど40〜50℃で半温熱乾燥させる。それから燻煙材を入れて4時間ほど60〜65℃で燻煙する。熱源は炭を基本とするが、僕は登山用携帯コンロも併用する。炭だけだと温度管理が難しいからだ。 家の中で燻煙すると、僕たち家族もベーコンになる。それで、煙が外に抜けるポーチで燻煙することにした。始めたのが夕方6時と遅い時間で、焼酎を飲みながらの作業だ。これまで、飲みながら燻煙して、そのまま寝てしまったことも度々あった。 翌朝、つくったベーコンの写真を撮ろうと撮影セッティングしていると、庭師のバッキーとかノリちゃん、マイちゃん、レイナとか、朝から続々といろんな人が現れた。僕は忘れていたが、その日はベニシアが企画したオープン・ガーデンの日だという。僕は急いで撮影を進めるが、皆の目はベーコンを凝視している。「おいしそう、上手につくりましたね〜」と言ってくれた。でも褒める言葉の裏には、「私たちにも当然、分け前があるんでしょう…!」と皆の目は語っていた。 撮影を終えると、すぐにスライスして皆に食べてもらった。嬉しそうな顔がたくさん見える。ケガで落ち込んだ日々を送っていた僕だが、「うまい!」の言葉にジンワリ元気が出てきた。かじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。PROFILE燻煙中の肉。温度や害虫管理など考えると、ベーコンづくりは夏を避けて秋から春がいい。右上から時計まわりに /流水にさらし余分な塩分を抜く。 /節約のため自家製の粗い燻煙材(上)と市販のチップを混ぜて使用。 /スモーカーに入れて燻煙中。 /塩抜きした肉を吊して乾かす風乾。

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