雑誌「チルチンびと」86号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
3/4

横山さんが知らせてくれた。横山さんは有機農業をやるため、昨年4月に引っ越してきた3人の幼い娘さんを持つ若い夫婦だ。彼はいくつか問い合わせて、それが携帯電話基地局(携帯電話の電波を中継するアンテナ)であることが判った。 工事から数日経ったある日、基地局の説明を求めた横山さんに応じて、近くにある病院職員二人がやって来た。基地局が建つ土地の地主が、その病院なのである。僕とベニシアも一緒に説明を聞くことにした。 「基地局が建つことは何も知らされてません……」と横山さん。「携帯電話の電波状況を良くしたいのでアンテナを建てたいと、電話会社からうちは依頼されました。この説明書を配ってもらうよう、今年の1月にそちらの町内に手配したはずですよ」と職員。ところが、僕も横山さんもその説明書の文面を見た覚えはなかった。しかも8カ月も前のことである。「私たちはよくわからないので、詳しくは電話会社に聞いてください」と僕たちは言われた。 基地局から最も近い横山さんの家の距離を測ってみると45メートル、我が家は90メートルである。直ぐそばは田んぼや畑に囲まれており、地主の病院は150メートルほどであった。 ベニシアも僕も携帯電話の電波とか電磁波について、ほとんど何も知らなかったが、何となく怖れていた。それで少し調べてみることにした。電磁波とは電場と磁場が交互に振動しながら空間を波のように伝わるエネルギーのことで、テレビや携帯電話に使われる電波は電磁波という大きなグループの中の一員である。もともと自然界に存在する光も電磁波のひとつだが、電波のような電磁波は人間が人工的に作り出したものだ。そういう電磁波を利用する携帯電話は非常に便利なものであるが、健康被害があることも世界中で報告されている。  ある日ベニシアが畑でハーブの種まきをしていたら、横山さんの長女が手伝いに来てくれた。「心配やね。夜眠れなくなるかもしれないね」と彼女。たった5歳の女の子の口からそんな言葉が出てきたことにベニシアは驚かされた。基地局ができたら庭のハーブもだめになるかもしれないとベニシアは思っている。人の健康被害だけでなく、ミツバチがいなくなったり、奇形植物ができることもあるそうだ。そんなことを考えながら土を触っていると涙で目がかすんだという。 ベニシアは知人に頼んで携帯電話電磁波の健康被害記事のコピーを作って貰い、基地局の存在をまだ知らない町内の人びとに話して回った。すると8月末の町内集会の話題は基地局のことで持ちきりになった。今vol.24目には見えないが、怖そうなもの 緑豊かで閑静なこの地に住み始めて19年になる。大原での暮らしを楽しんでいたのだが……。 8月末のある日、「うちの前に電柱のようなものが建ったんですが、ご存じですか?」と斜向かいに住む上:ある日突然、近所に建った携帯電話基地局の柱。 左:携帯電話の電磁波を電磁波測定器で測ってみる。庭の雪をかきわけて、料理に使うローズマリーを剪定する。

元のページ 

page 3

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です