雑誌「チルチンびと」66号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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り、僕も自分でレストランを始めて、 美味しい料理と素敵な雰囲気をお客 さんたちと分かち合いたいと思うよ うになっていたのだ。   DiDiのお客さんはインド好き な人や外国人、また、ベジタリアン の人も多い。カレーだけでなく、玄 米菜食メニューなどつくっているか らだ。今は僕の妻となったベニシア も、開店した頃から来てくれたお客 さんだ。「ごちそうさま。美味しか ったよ!」とお客さんに喜ばれるの が嬉しくて励みになった 。   ある日、お客さんのBさんが、カ レーを待つ間、僕に話しかけて来た。 「この店の電気配線はよくないなあ。 俺が直してあげるよ」   彼は電気工事士である。業者に頼 む経済的な余裕がないことを説明し つつ、やんわりと断った。 「インドカレーを何食かタダで食わ せてくれるとか……それが工賃とい うことでどう?」   こうしてDiDiの電気配線工事 は、冗談みたいなやり取りで決まっ た。   さて、我が家の電気配線工事をど うしようかと思案していた時、頭に 浮かんできたのがBさんの顔である。 電話してみるとOKの返事。工事の 様子を見たいので、僕も手伝いたい と申し出ると承諾してくれた。今回 の工賃もインドカレーというわけに はいかなかったが……。   Bさんのおかげで配線工事は二日間で終了した。僕も参加して新たな ことを体験できた。家中に明かりが 灯り、コンセントに掃除機のプラグ を差すと音を立ててゴミを吸ってく れた。気になっていたことが一つ解 決 して、すっきりした気分だ。僕は 嬉しくて、設置された配線器具やケ ーブルなどをじっと眺めていた。 イギリスから遊びに来たチェサー一家と一緒にすき焼きディナー。 みんなは慣れない箸使いに、てんてこ舞いだった。 上右/春の日差しを浴びるルピナスとチューリップ。 上左/たくさ ん採れたので吊って乾燥させドライ・カモミールに。 下/摘みたて カモミールで、リラックス効果の高いハーブティをつくった。 旗づくり名人の福井恵子さんの工房で、孫の浄と一緒に染めた鯉のぼり。爽 やかな五月晴れ、気持ちいい風を吸い込んで泳いでいる。 かじやま・ただし 1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の 風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年の ヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まも なく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ 研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知 り合い、92年に結婚した。

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