雑誌「チルチンびと」64号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
4/4

のモノクロ写真である。 新しい住まいでの最初の夜は、1 階の和室に布団を並べて寝た。翌朝、 大きな窓から差し込む朝日が眩しかった。昨夜は遅くまで掃除をしていたのに、ベニシアは早起きして作業 を始めているようだ。 風呂で問題発生 生活を始めて最初の問題は風呂で 起こった。この家の風呂は薪を燃やして温める、昔懐かしの五右衛門式 である。浴槽の底に排水の穴はあるが、お湯を溜める栓が付いていなか った。それで、とりあえずワインの コルク栓に布を巻き付けて代用した。 翌日、ホームセンターで栓を探してみたが、どれもサイズが合わない。 それから数日が過ぎても、栓の問 題は解決していなかった。売主に尋 ねればわかるはずだが、引っ越し当日のことがあったので聞きに行くのは気が引けた。僕は売主とある程度の距離を保つのが良さそうだと考え ていたからだ。ところが、そんな僕 の気がかりは役に立たない。 「栓は風呂のすぐ外にある」 ベニシアが売主の家へ行って得た実質的な情報である。 それを聞いて、風呂の近くの屋外を探ってみた。バルブの付いた排水管が屋内からつながっている。試しに浴槽に水を入れてみると、その排水管から水が流れ出した。水を溜めるには、バルブを閉めればいいようだ。これまでは、代用コルク栓を使っていたので密閉できず、お湯は勝手に流れ出ていたのだ 風呂の栓の問題は、これで解決し た。ようやくこの日から、僕たちは 温かい風呂にゆっくりと浸かること ができるようになった。 かじやま・ただし 1959年長崎県生まれ。写真家。 山岳写真など、自然の風景を主な テーマに撮影している。登山ガイ ドブックほか共著多数。84年の ヒマラヤ登山の後、自分の生き方 を探すためにインドを放浪し、帰 国後まもなく、本格的なインド料 理レストラン「DiDi」を京都で始 める。妻でハーブ研究家のベニシ ア・スタンリー・スミスさんとは レストランのお客として知り合い、 92年に結婚した。 今は、置き物として可愛がっているダルマストーブ。 右上より時計回りに /冬の間、 寒さに弱いハーブは植木鉢に植 えて縁側に入れておく。 /たく さんの薪を確保することも仕事 の一つ。 /ネコジャラシ。穂で 猫をじゃれさせたことが名の由来。 /秋から冬の庭は、枯れた花や 枝葉も楽しむ。

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る