雑誌「チルチンびと」63号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
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P5 は楽観的に見ていた。ところが、紹介された家に行ってみると、山崩れが起きそうな急斜面、日当たりが悪い、道のそばで騒音が激しいなど、希望に添わない家ばかり。家探しを始めて半年経つ頃には、新たな物件情報を得ることはもうなかった。「どうせ借家なんだか ら … 」と僕は何度もベニシアに妥協するよう説得したが、彼女は首を横に振るばかり。ベニシアだけでなく、京都に住む西洋人の家に対するこだわりは、すごいものがある。そのうち、自分で歩いて空き家を探すという作戦も開始した。ある日、不動産屋からの電話。「あんたらが、必ず気に入る家を見つけた。大原や。見に行ってみぃ!」  家を買うことに 京都市街地から北へ 20分ほど車を走らせ、僕たちは大原へ向かった。家主の老人が古い農家へ案内してくれる。玄関をくぐった瞬間に「これ、いけるかも!」と僕は感じた。古い日本家屋なので、薄暗くひんやりとした空気が漂っている。「いい感じねえ」とベニシア。小さな悠仁は、家の中をきょろきょろと見ている。  仏壇のある和室に上がると、先祖の古い写真の額縁が架けられていた。ここに引っ越したら、この家の先祖たちの幽霊が出てくるのでは?と不安な気持ちがよぎる。応接間の床柱はしぶくて立派だ。直筆の山水画が描かれた襖からは、この家の歴史 11月になるとクリスマスに備えて、英国のトラディショナル・フルーツケーキを仕込む。たくさんつくって、親戚や友人にプレゼント。 ダイニングキッチンでは、晩秋から春まで毎日、薪ストーブの炎が目を楽しませてくれる。

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