雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ドイツ、スイスに学ぶ脱原発都市の実践」
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194 スイス・ドルナッハの町と住宅 集合住宅と個別住宅の利点、プライバシーをバランスさせたエコハウス 3 ドルナッハに建つエコハウス。ミツバチの巣 をモチーフにした多角形のデザイン。  スイス北西部に位置するバーゼルは、ス イス最古の大学バーゼル大学があり、世界 に市場を広げる大手の製薬会社やヘルスケ ア関連企業が軒をつらね、ライン川流域の 美しい町並みに観光客が多く集まる活気あ ふれる都市。  そのバーゼル近郊、中央駅からトラム(路 面電車)で 15 分ほど西へ向かった場所にド ルナッハ町が位置している。  標高338メートル、面積5・77平方 キロメートル、人口約6400人の小さな 町で、 43 ・6%が森林、 17 ・3%が農地、 33 %が住宅や建物といった緑の豊かな丘陵 地で、今日でも湧水がそのまま飲めるほど 環境保護も行き届いている。地質はライム ストーンとよばれる石灰岩が主で、この町 はこの岩盤の上にあり、地震による被害は 約700年前を最後に起きていない。また、 バーゼルへの通勤圏であるということや、 ゲーテアヌム(日本でシュタイナー教育と 呼ばれているものを含む総合芸術館)があ るということで人気があり、土地建物の価 格が安定している。  地元に根ざした自然食品店やパン屋、精 肉店、スーパーマーケット、カフェやレス トランなどが点在し、そこではたくさんの 高齢者に出会うことができる。  こぢんまりとした町であっても、在宅介 護サービスやデイサービスなどの住民サー ビスが充実しているため、高齢者世帯でも 自立した人生を送りやすく、 80 歳以上かと 思われる高齢者の方でもよく学び、美しく 装う人が多いのも特徴的な点である。 菜園が結ぶコミュニティ  ここには、近代的な娯楽施設などはない が、庭づくりを通して隣人同士の情報交換 に話の花の咲く、古くて新しいコミュニ ティがある。  ゲーテアヌムの後方に広がる「バイオダ イナミック農園」が開くマーケットは、採 れたての野菜や果物をもとめる子ども連れ の買い物客で賑わっている。  この町に住むフィリップ・メルツさんに よれば、地域の酪農家を支えるためのコ ミュニティがあって、週に一度町で乳製品 を共同購入するとのこと。「グループの6 人のうち1人が、車で1時間のところにあ る酪農場へ乳製品を取りに行き、グループ 内で分ける。新鮮な乳製品が手に入るだけ でなく、こうすることで酪農家を直接支え ることができる」と、ご自慢のヨーグルト を差し出してくれた。  ドルナッハ= アーレスハイム駅周辺で の開発ラッシュが続く一方、住民による共 同体がコミュニティガーデンを維持管理 し、美しい自然の景観を守る努力もなされ ている。たとえば農園の所有者とその共同 者がともに管理運営することで、遺産相続 を機に造成されてしまう可能性を抑えてい る。また、近隣諸国が戦争下にあったとき、 食料を輸入することができなかった経験か ら、果樹を植え自家菜園で野菜をつくり、 日ごろから保存食の準備をしておくなど緊 急時に備える家も少なくない。  住まいの間取りで日本と最も異なるの

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