雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ドイツ、スイスに学ぶ脱原発都市の実践」
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デレスケさん宅。開 口部から取り入れた 太陽熱を逃がさず寒 い冬でもロウソクや生 活から出る熱でほぼ暖 房が足りる。 上/熱を逃がさないためヴォーバン地区では一戸 建が禁止。大きな集合住宅を除けば、壁で隣の 家と接している家が多い。 右/五つある緑地 公園のうちの一つ。山から吹き下りる風をまんべ んなく居住地に通す。 るためのくぼ地。それら数多くのプロジェ クトと並行して市と市民が力を入れたの は、省エネルギー型の街づくり・家づくり である。  冬が長く氷点下も珍しくないドイツで は、住居の暖房に多くの「エネルギー」を 使う。ここでいうエネルギーとは電力に限っ たものではなく、暖房用オイルや天然ガス を燃やして暖房や給湯に使う熱のこともさ す。せっかくストーブで暖を取っても、す きま風がそれを奪ってしまっては意味がな い。いかに熱を逃がさない建物をつくるか が、ドイツのエネルギー問題では肝であり、 また化石燃料ではなく太陽が与えてくれる 無償の熱源をうまく使う必要もある。 集合住宅のパッシブデザイン   16 世帯、 40 人が住む集合住宅を例にとっ て紹介しよう。東西に長く建てられたこの 家は、広い南向きの面に大きなガラス板が はめ込まれ、太陽の光と熱がふんだんに部 屋の中へと差し込んでいる。家の前の大き な菩提樹は、夏の暑いときには日差しを和 らげ、冬には葉を落として光を通す。窓は 3重ガラスで、壁には断熱材であるウール やポリウレタンが 35 ~ 40 センチの厚さで詰 められている。さらにベランダ部分は自立 できるような構造になっていて、建物と必 要最低限な部分でしかつながっていない。 そのためベランダを通じて外部の冷気が建 物内へと伝わることも抑えられる。  断熱性がよいと建物の密閉性も高くな り、カビの発生等を避けるためにも換気が 必要になる。しかしそのために窓を開けて しまっては、せっかくの暖かさが逃げてし まう。そのためこの家では、換気装置によ る自動的な空気の入れ換えが行われるが、 外から入ってくる新鮮な空気は中から出て いく空気とあらかじめ熱を交換するので、 換気によって室温が低下するという問題も ほとんど起こらない。  太陽の恵みの「熱」を家の中に閉じ込め、 暖房をほとんど必要としないこの建物は、 1999年に集合住宅としてはドイツで初 めてのパッシブハウスとして誕生した。し かもこの建物を建てたのは不動産屋でも建 築業者でもなく、一人の建築家と市民が一 緒につくった「建築グループ」だ。つまり、 この家に将来入居することになる人たちが 意見やアイデアを出し合い、十分な議論を 重ねて、自分たちが住みたい家をつくり上 げていったのだ。また計画を練っただけで なく、基礎工事後の内装などは、居住者が 多くを自ら手がけた。  この家の住民の一人で、ヴォーバン地区 のツアーガイドも行うアンドレアス・デレ スケさんは、この家に住むことの魅力の一 つをこう語る。「多くの人が最初は懐疑的 で、本当に自分たちでできるのか疑ってい るけど、実際にやってみればそれが可能だ とわかってくる。そうやってつくり上げた 家に住むこと、自分たちの省エネのコンセ プトが間違っていなかったということを毎 日認識できるのは非常に幸せだと思う」  この家にはさらに小型のコージェネレー ション装置があって、冬場には天然ガスを 燃やして暖房・給湯用の熱と電気を生産す

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