雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ポスト3・11時代の住まいの暮らしとエネルギーの関係」
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186 夏には汗を流して涼を得る、冬には体を温 めることを目的としています。  照明用エネルギーは生活するために必要 な明るさを得ることを目的としています。  厨房用エネルギーは、日々の食事をつく ることを目的とし、家電等のエネルギーは TVや音楽を楽しんだり、パソコンや電話 で情報を交換したりすることなどを目的と しています。  住まいにおける電力消費量を劇的に削減 するということは、これらの目的をいかに 少ないエネルギー消費で実現するかを追求 することにほかなりません。 「自由に電力を使える時代」以前、私たち は実にさまざまな工夫や手間を重ねてこれ らの目的を達成しようとしてきました。  たとえば、夏の暑さをしのぐために、開 放的な間取りにより風通しをよくし、簾や よしず、格子により太陽の熱が室内に入る ことを極力防ぎ、朝や夕には打ち水をし て、住宅まわりの気温を下げる工夫をしま した。  これら、直接的に「熱」を制御するだけ でなく、風鈴により音で風を感じたり、簾 やよしず、格子越しに庭や通りを眺め明暗 を認識することで、涼しさを感じたりしま した。  また、草花や鳥、昆虫の姿や鳴き声を楽 しむことで、夏の暑さそのものを楽しむ術 も持っていました。  汗をかいたり、どうしても体がほてって しまうときには、水浴びをして涼を得、ま たスイカなど体を冷やす効果のある食べ物 を食しました。 「自由に電力を使える時代」になると、こ れらの工夫や手間の上にエアコンが導入さ れ、室内の気温を下げることが可能となり ます。  当初は冷房能力も効率も悪く音もうるさ かった機器の性能が向上するにつれて、よ り容易に、より涼しい室内を得られるこれ ら設備機器により夏に涼しさを得るように なり、それまでの「夏の暑さをしのぐ」た めの小さな工夫と手間は姿を消していくよ うになりました。  このような経緯を振り返ると、現在の私 たちのエネルギー消費行動について、次の ような変化があったことがわかります。  電力が自由に使える時代以前には、室内 の熱環境をできるだけ悪化させないよう工 夫し、音や視覚から涼しさを感じ、夏とい う季節を楽しみ、水浴びや食べ物で体を冷 やすといった、一つひとつの効果は小さい 取り組みを、能動的に積み重ねて夏の暑さ をしのぎ、また「熱」以外の快適さを享受 してきました。  これらの工夫が次第に「エアコン(冷 房)」という設備機器に置き換えられ、エ ネルギーを集約的に投入することにより、 手間をかけず「夏の涼しさを得る」ように なってきました。  重要なことは、さまざまな小さな工夫や 手間を省いてきたことに加え、求める快適 さの水準が「暑さをしのぎ、夏を楽しむ」 から「室内を冷やす」へと、飛躍的にエネ 世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費の推移/ エネルギー白書2011(経済産業省)より 家庭部門におけるエネルギー源の推移/エネルギー白書2011(経済産業省)より 夏に快適に過ごすためのエネルギー消費量を増加させてきた要因 ルギー集約型にシフトしている点です。  同じ傾向は、家電製品のうちでも常時稼 働し電力消費量が多い「冷蔵庫」にも当て はまります。 「電力が自由に使える時代」以前は、食べ 物が腐らないようにするため、干物のよう に食材を腐りにくく加工したり、風通しの 良い冷暗所に保管したり、その時期に採れ る採れたての食材を食してきました。食材 を冷やす際には、必要なタイミングで井戸 水を利用しました。 「電力が自由に使える時代」になり冷蔵庫 がごく当たり前になると、旬とは異なる季 節の食材を含めて多くの食材を冷蔵庫で保 管するようになりました。また冷たい飲み 物なども、常時冷蔵庫で冷やすようになり ます。  この例でも、冷蔵庫が「食材を保存する」 ためのさまざまな工夫や手間を解消したこ とに加え、「いつでも多くの食材を保存す る」「いつの季節の食材をも楽しむ」「いつ でも冷たいものを得る」など私たちが求め る利便性の水準の飛躍的な高まりがみら れ、これが多くのエネルギー消費によって 支えられています。  つまり、「電力が自由に使える時代」に おける家庭での電力消費の増加量は、それ 以前のさまざまな小さな工夫やそれを積み 重ねる住み手の手間を代替するために必要 なエネルギーと、私たちが望む生活の目標 水準の向上のために必要なエネルギーの合 計となっているのです。 4.現在よりも少ない電力消費量で快適な 暮らしを実現するために  今後、減原子力発電・脱原子力発電の実 1965 年度 17,545 × 10 6J/ 世帯 1965 年度 17,545 × 10 6J/ 世帯 1973 年度 30,268 × 10 6J/ 世帯 1973 年度 30,268 × 10 6J/ 世帯 2009 年度 38,179 × 10 6J/ 世帯 2009 年度 38,179 × 10 6J/ 世帯  

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