雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ポスト3・11時代の住まいの暮らしとエネルギーの関係」
2/6

185 住まいと暮らしの場面で 電力をどのように考えるか 将来の電源構成選択の主な論点 Ⅱ.電力の需要と供給のタイミングをどの ように調整するか  また、基本的に電力はためておくことが できませんから、電力が必要とされるタイ ミング(需要)にあわせて、適切な電力量 を供給する必要があります。時々刻々と変 化する需要に対して、従来はベーシックな 電力量を原子力発電により確保しつつ、増 減する電力量を過去の統計や天候などに基 づき予測して火力発電の出力を調整してき ました。ところが、今後、太陽光発電や風 力発電を含めた再生可能エネルギーによる 電力の供給量を増やしていくと、供給側の 出力も時々刻々と変化するようになります。 そうなると従来の電力の需給調整方法では 対応できなくなる恐れがあるため、①発電 量を正確に予測すること、②需要量を正確 に予測すること、③需要過多の場合に需要 を制御する(デマンド制御)、④発電過多 時に電力をため、需要増大時に供給できる ようにする、といったことが可能な新たな 電力インフラを構築する必要があります。 Ⅲ.その他の論点  上記の電力の供給力、需要と供給の調整 力のほかに、電源の安全性、電力供給コス ト、海外に頼っているエネルギー資源調達 の安全性、将来における世界の中でのエネ ルギー配分の可能性、地球環境問題、何よ り我が国の将来の日常生活や産業のあり方 について、しっかりと合意形成することが 不可欠であると考えます。 1.需要側である「住まいと暮らし」とエ ネルギーの関係をどう考えるか    前述のように、我が国における今後の電 源のあり方については、多数の視点からの 議論の上に合意形成され、それを実現する 仕組みを整えていく必要があります。これ には相当の時間と社会的コストがかかると 考えられます。  一方で、将来の電源構成と電力供給シス テムについて議論し決断するためには、私 たちが今後日常の暮らしと電力・エネル ギーの関係をどのようにしていくのか、電 力・エネルギーをどのような目的でどの程 度必要とするのかを検討することが避けら れません。本項では、「住まい・暮らしに おける電力・エネルギー」に着目し、減原 発・脱原発を実現するための課題を、筆者 なりに記します。 2.「電力消費が制限される時代」の想定  従来、電力をはじめとする家庭における エネルギー消費量は、一貫して増加傾向に ありました。特に電力は、比率も量も大幅 に増加しており、これは原子力発電所を含 む電源の継続的な開発により増加する需要 を支えるという「電力を自由に使える時 代」だったから可能だったといえます。  もちろん、近年はエネルギー消費増加に 伴うCO2排出量増加が重要な課題とされ ましたが、電力消費量の増加そのものが重 要な課題であると認識されてはいなかった のではないでしょうか。  減原子力発電・脱原子力発電を視野に入 れる時には、この前提を変える必要があり ます。  家庭で消費することができる電力量が無 制限ではなくなる可能性があること、特に 再生可能エネルギーによる電力の比率を高 める場合には、需要と供給のバランスに よって使用できる電力が一時的に制限され るタイミングが発生する可能性があると いった、いわば「電力消費が制限される時 代」を想定する必要があります。そして現 在よりも劇的に少ない電力消費量で快適な 暮らしを実現することと、電力供給が制限 される瞬間に備えることをめざすことが大 切になります。 3.暮らしの中でエネルギーを消費する目 的と手段  一般的に今日の家庭におけるエネル ギー消費量は、暖房(9567MJ、 25 ・ 1%)、冷房(678MJ、1・8%)給 湯(10939MJ、 28 ・7%)、厨房 ( 3130MJ、8・2%)、動力・照明他 ( 13864MJ、 36 ・3%)と言われて います(2009年度)。これらは、電力 や都市ガス、石油、灯油などが、それぞれ の用途の設備機器に投入される量を示して いますが、そもそも私たちはどのような目 的でこれらのエネルギーを消費しているの でしょう。  暖冷房用エネルギーは、健康的で安全に 暮らすことを目的に室温を夏には涼しく、 冬には暖かく保つために消費されます。給 湯用エネルギーは、清潔を保つとともに、 我が国の発電電力の推移(一般電気事業用)/ エネルギー白書2011(経済産業省)より (億kWh) 12,000 10,000 新エネ等 原子力 石油等 LNG 石炭 揚水 8,000 一般水力 6,000 4,000 2,000 0 1952 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009 新エネ等 1.1% 原子力 29.2% 石油等 7.6% LNG 29.4% 石炭 24.7% 揚水 0.7% 一般水力 7.3% (年度)  

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です