雑誌「チルチンびと」 パッシブでアクティブな暮らし
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放的な間取りとしたり室間で暖気が流れるよ うな工夫をします。 ・冷たく感じさせない工夫  夏の「ひんやりさせる工夫」と同様、冬に ついても壁や床の「表面温度」に配慮します。 冬は、壁や床の表面温度が低いと、人の体温 が輻射により奪われ寒く感じるので、表面温 度を下げないよう工夫します。また、「接触 温度」についても考慮します。  前掲の壁体内に暖気を流すパッシブ・デザ イン(図13)は壁の表面温度を下げない効果 があります。壁に比べどうしても表面温度が 低くなる窓まわりには、断熱性のある雨戸を 設置したり室内側にカーテンを設置すると効 果があります。また補助的に輻射暖房器を設 置することも有効です。人が直接触れる床に はより温かみの感じられる床材を選ぶことや どうしても冷たく感じる場合には、冬の間だ け部分的にカーペットを敷くことなどで冷た さを解消することができます。内装に木を多 く使うことはこれら表面温度や接触温度の観 点から「冷たさ」を解消する効果はもちろん、 照明器具などとあわせて視覚的にも「温かさ」 を感じる効果も期待できます。 3 パッシブ・デザインは 衣替えのデザイン  ここまで、夏のパッシブ・デザインと冬のパッ シブ・デザインのポイントやそれらを生かす 工夫についてみてきました。  夏のパッシブ・デザインは、「暑すぎない住 宅」をめざして、太陽の熱を遮断する一方で いかに効率よく熱気を排出し涼気を取り入れ るか、がポイントでした。冬のパッシブ・デザ インは、「寒すぎない住宅」をめざして、太陽 の熱をいかに逃がさず上手に使うか、がポイ ントでした。どちらもエアコンのような「強力 な」暖冷房システムではないので、さらに暮 らし方の工夫などを重ねることで、より心地 よい室内の環境をつくっていけます。どうし ても寒すぎたり暑すぎたりする時には、効率 よく設備の力を生かすことができます。これ がパッシブ・デザインのめざすところでした。 また、夏に暑さを感じさせないデザインや工 夫をすることと、冬に寒さを感じさせないデ ザインや工夫をすることを詳しく見ていくと、 実は反対の行為、裏返しの行為であることが わかります。太陽の熱を受け入れたり、遮断 したり。室内の風を抑えたり、流したり。床 の表面を温かくさせたり、ひんやりさせたり。 つまり、冬向きの行為(冬服)と夏向きの行 為(夏服)を上手に切り替える「衣替え」が 大切なのです。 三井所清史(みいしょ・きよし) 建築家 1994年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。 ⑭岩村アトリエにて建築・まちづくり計画関連調査・研 究を担当。主に環境共生住宅の研究開発・普及に携わる。 写真7 開口部下部に温水ラジエターを設 置した例(事例・) 写真8 木と明かりでぬくもりを演出(事 例・) これからの 「パッシブ住宅」がめざす姿  これまでパッシブ住宅は、住宅の一つの在 り方として位置付けられていた面がありま す。しかし、太陽や風といった自然の力を 最大限に生かす「パッシブ・デザイン」と、 こまめに住まいの衣替えをする「アクティ ブな暮らし方」は、心地よい居住環境をつ くり出しながら、電力をはじめとするエネ ルギー消費量や二酸化炭素排出量を削減し、 地球温暖化防止と電力を安全で安定的に利 用できる社会の実現に大きく貢献すると期 待されます。そのためにはパッシブ住宅に おいても、暖冷房エネルギーを限りなくゼ ロに近づける暮らしの実現をめざすと同時 に、給湯や、照明・家電・調理等の分野の エネルギー消費量の削減にも取り組んでい く必要があります。住宅内の設備機器の効 率を向上させると同時に、太陽の熱を給湯 に活用したり、太陽光発電を導入したりと いう、いわば「アクティブな技術」にも積 極的に取り組んでいく必要があります。  現在、「スマートハウス」実用化に向けた 動きが加速していて、注目を集めています。 スマートハウスとは、情報技術により家庭 で使う電力消費機器や太陽光発電システ ム、蓄電池などを制御しながら、 ●エネルギーの見える化により居住者の省 エネ行動を促すこと ●エネルギー消費機器の運転の最適化により 省エネ化と快適性向上を実現すること ●太陽光発電など自家発電電力の消費・蓄 電、電力の買売電を最適化すること などをめざしたものです。さらに、個々の住 宅での最適化だけでなく、スマートグリッド と連携し、従来の電力供給網に再生可能エネ ルギーを加えた新しい電力の発送電のシステ ムの一部を構成することが期待されています。  このスマートハウスにおいても、パッシブ・ デザインは重要な役割を果たすと考えられ ます。パッシブ・デザインと情報技術が連 携することにより、単に機器の省エネ運転 を実現するだけでなく「開けたり閉めたり」 や「夏・冬の衣替え」を上手にコントロー ルしながら、より自然エネルギーを効果的 に利用し、快適性と省エネ性、電力の需給 バランスの最適化を実現することができる と、考えられるからです。  以上のように、狭い意味での「パッシブ・ デザイン」だけでなく、今後は、「パッシ ブ住宅」と「アクティブな暮らし方」のベ ストミックスを核に、アクティブな技術や スマートハウス技術などを取り入れながら、 「地球温暖化防止」と「電力を安全で安定 的に利用する社会の実現」に貢献する住宅 の在り方としてパッシブ住宅が展開するこ とが望まれます。 事例・ 「次世代ゼロ・エネルギー住宅」蒸暑地仕様(三重県  設計/ミサワホーム株式会社) 事例・ OHハウス(東京都 設計/株式会社岩村アトリエ) 事例・ S邸(埼玉県 設計/株式会社岩村アトリエ) 写真提供/三井所清史

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