住宅雑誌「チルチンびと」66号掲載 設計 吉住 慶男
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台所に住む、というのがコンセプト。子どもの時、狭くても台所のそばで宿題をしていたので、ひとつながりのLDKで、皆で過ごせる家がよかったんです」と話すのは、大谷哲也さん。その通り、1階はワンルームのLDKで占められている。10人以上で囲めるという4メートル弱のダイニングテーブルが映える、広くて気持ちのいい空間だ。  古くから焼き物の産地として名高い信楽は、今も多くのつくり手が暮らす。なかでも大谷さん夫妻と同世代の仲間は多く、家族ぐるみで互いの家を行き来しては、仕事のこと、子育てのことなどを語り合っている。  そんな時に活躍するのが、長いダイニングテーブル。皆で囲むと、まるで学食の長テーブルのようで話が弾む。食べたら遊び始める子どもたちとは食卓を分け、それぞれの時間を楽しめるようにしている。  ところで、松の一枚板でできたこのテーブル、実は大谷さん夫妻が特別希望したわけではなかった。設計・施工を担った吉住慶男さんが長年あたためてきた良材で、そのままの長さを生かせ、実用的に使ってもらえる家に置いて欲しいと考えていた。そのなか、「この家以外にない」と、大谷さんの家に白羽の矢を立て、晴れてLDKの主役となっている。  大動脈のような通路 花ちゃん、風ちゃん、緑ちゃんの3姉妹が、色鉛筆で思い思いに書いた今日の昼ごはんメニューが冷蔵庫に張られている。キッシュ、マカロニサラダ、スープ、ジャガイモバター、パン。鶏肉と白菜、セロリを使ったスープは、花ちゃん作で、慣れた手つきで野菜を切っていた。次女の風ちゃんもキッチンにやって来て、マカロニサラダづくりのお手伝い。緑ちゃんも加わり、家族全員で昼ごはんの準備に取りかかっても、キッチンは混み合わず、自分のスペースを確保して作業している。シンク側 とガス台側の間は、1・3メートルという幅があり、動線が交差しないことが大きいという。 「前の家では、哲ちゃんと台所に立って、しょっちゅうぶつかっていたので、新しい家ではお尻がぶつからないキッチンがいいなと。でも、あと20センチ狭くてもよかったかも」と、桃子さんは笑う。   正午を過ぎて、友人たちがやって来た。開放的なキッチンに自然と入り、手土産をお皿に出していく。家族と同様に客人も包み込む、懐の深

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