住宅雑誌「チルチンびと」86号掲載 設計 田中敏溥
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54した収納ゾーンを部屋の中央に置き、コンパクトで落ち着いた一角をリビングとした。階段を挟んで奥には、来客時には寝室にも使える4畳半の和室を。南北面に水平線を強調した横長の窓をすっと入れ、光と庭の緑を呼び込むように。設計の妙で、とかく単調になりがちな奥行きのある空間に変化を生み出している。1階は広い土間の玄関の一角に、登山の道具を納める小部屋を設けた。 今とりわけ心待ちにしているのが、冬を迎えること。「前は断熱のない古い戸建て暮らしだったので、寒くて動けないこともしばしば。劇的に冬が変わりました」。空気集熱式パッシブソーラーシステムのOMソーラーを導入しながらも、寒い時期は毎日薪ストーブに火を入れる。「家が息を吹き返すようです」とご主人は言う。 「妻は、薪ストーブは暖かいから重宝しているんですが、男と女の違いなのかな。僕は薪をくべ、火をつけること自体が嬉しいんです」と声を弾ませる。「炎の表情も毎回違う。火と薪が対話しているのを見るのが、本能的に心が躍るんですね」。炎を眺めながら音楽に耳を傾け、コーヒーを味わうような時間を過ごしたかった。それが実現した今、「何げないけれども、何よりの贅沢ですね。冬ってこんなに楽しかったんだ、としみじみ思います」。初めて火を体験したのは、子どもの頃のキャンプでのこと。「ただ、野外で火を熾すのと、家で火を楽しむのは違う。薪ストーブってすごいですよ、煙にむせることなく炎を味わえるんですから」とご主人は言う。 竣工して1年、庭の一角に菜園もつくり、実りの恩恵にも預かる。「自然体でよく笑い、よく怒り、よく食べ、よく寝て、家とともに年を重ね、つやと魅力を増していきたいんです」と顔を見合わせた。左:玄関の横にある、土間続きの納戸。二人分の登山道具がゆうゆう収納できる。 右:風が入る玄関土間。 左2点:谷さん自らつくった薪棚。金物を使わず長ホゾと込栓を用いた本格仕様。 右:檜張りの浴室。窓から薪棚が見える。 

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