住宅雑誌「チルチンびと」82号掲載 設計 田中敏溥
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64 「生火は最初から欲しかったんです。〝軽井沢の山荘〟も暖炉がありましたし。ただ、暖房機能はパッシブソーラーシステムを、キッチンもプロ仕様のコンロを入れると決めていたので、純粋に“眺めるもの”として考えていました」(瀬川さん)。 田中さんに相談したところ、暖炉は入れても実際使わないことが多いよ、との話があり薪ストーブに。しかしパッシブソーラーシステムが十分に効いたため、その存在を思い出したのは2014年2月に首都圏を襲った大雪の折。薪をくべてみたところ、暖かさ以上に炎に魅せられ「思わずテレビを消しました」。 火を灯すと、いつしか家族がそのまわりに集まりだす。この日、瀬川邸を訪問した田中さんも、「久しぶりに炎を見たけど、童心に返ったようにわくわくする。火は人間にとって根源的なものなんだろうね」、と目を細める。「けれどもこの家でいちばん楽しんでいるのは、僕かな」と瀬川さん。曰く、「やっぱり男は、火をつけるのが好きな生き物(笑)。娘は火の前で玩具を広げるけれども、僕にとって火そのものが、極上の玩具のようなものなのです」。の構造を現すことが多いが、今回に限っては、瀬川さんからリクエストを受けた。「吉村順三さんの名作“軽井沢の山荘”に憧れていて。今では使われないラワンベニヤも新鮮で。東京藝術大学で教鞭をとった吉村さんの系譜にある建築家を探して、藝大出身の田中さんにたどり着きました」(瀬川さん)。端正でいて気負ったところがなく、おおらかであっても粗雑ではない空間は、プロポーションはもちろん、壁と天井の納まり、建具やデッキの手摺りのディテールなど、田中さんならではの設計によるところが大きい。 そもそも家づくりのきっかけは、夫妻各々の母親との同居。瀬川さん一家と二人の母が暮らせる、ゆったりした土地を求めてこの自然豊かな鎌倉山にたどり着いた。食事時は、二人の母と瀬川さん一家、5人が文字通り“一つ屋根の下”、食卓を囲む。 この日、友人も招いて囲んだ食卓では、一家の心づくしの手料理に加えもう一つのごちそう「火」が、にぎやかな時間を彩った。 火、それは人にとって根源的なもの天井高さが3ある1階アトリエ。キャンバスの搬出入のため南に大きな開口を。日当たりがよいので、障子も入れている。左2点:下り傾斜の敷地のため、玄関は2階レベルにある。玄関を入ってすぐ右手がキッチンとパントリーという便利な家事動線。 中:格子窓のある階段。 右:階段を降りた1階ホールは、ギャラリーにも。

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