住宅雑誌「チルチンびと」74号掲載 設計 大野正博
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 玄関戸を引くと、土間の奥で美 しくゆらめく薪ストーブの炎。ス トーブ前に積まれた薪や丸太の腰 掛け、精巧な帆船の模型、一目で 通好みだとわかる自転車……この 土間は単なる靴脱ぎのための玄関 ではなく、住まい手の愛着が宿っ た一つの居室のようだ。 「ここは私の趣味の部屋なんで す」と笑うのはご主人。冬にはこ の土間で炎の表情を楽しみ、雨の 日には趣味の自転車を漕ぐ。 「そう、ここは玄関であって、玄 関じゃないんだよ」と相づちを打 つのは、竣工以来久しぶりにこの 家を訪ねた建築家の大野正博さん。 「昔の農家では、土間が玄関代わ り。それだけではなく、農作業や 家事の場として機能していた」  通常、居間や食堂まわりに入れ ることの多い薪ストーブ。しかし 大野さんは、ストーブを入れるの ならこのA邸のように、玄関に相 当する「土間」しかないと言う。 「だって、薪や火は、おとなしい 部屋内よりも、土間のほうが似合 うじゃない」。続けてご主人も、 「ストーブまわりって汚れるんで す。灰の始末はもちろん、薪を外 から運び入れるだけでも木っ端が 落ちるから、土間で正解でした」  自由で気楽な土間空間。さらに 大野さんは、土間と廊下に 45 セン 日だまりと薪ストーブで、ぬくぬく昼ご飯 右/キッチンで昼食の準備をする奥さん。一方でご主人は、土間で愛犬シロ君のお相手。 左上/この日は薪ストーブでチキンの煮込みの仕上げ。  左下/間口いっぱいのペアガラス越しに日が入り、冬でも暖かいとか。昼食のお相伴にあずかりたさそうに、シロ君もそわそわ。 50  

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